2017年の出版関係お仕事(スマナサーラ長老の書籍など……結局かなり盛りだくさん)

2017年に出た仏教書の振り返りもしようかなと思ったけど、とりあえず年内に挙げておくべき記事ということで、今年たずさわった出版関係お仕事(スマナサーラ長老の書籍編集など。協会機関誌『パティパダー』や施本制作は除く)を載せておきますね。

【電書】は古いタイトルの電書化、または電書のみでの刊行。その他は原始書籍(紙を綴じたやつ)ですが、断り書きをしたタイトル以外は、ほぼ同時に電書版も出ています。

原始仏典――その伝承と実践の現在―― (サンガジャパンVol.25)

原始仏典――その伝承と実践の現在―― (サンガジャパンVol.25)

 

サンガジャパンで今年から連載が始まったスマナサーラ長老のパーリ経典解説「スッタニパータ(経集)第五『彼岸道品』」で構成を担当してます。編集者・ライターとしてはほんとにやりがいのある仕事ですね。まだ雑誌連載の段階ですが、仏教書読み全員必読と言いたい濃厚な内容なので、ぜひサンガジャパンを手に取ってみてください。

PHPから2008年に出たロングセラー(手帳サイズ)の文庫化です。一部に加筆修正を施しました。

【電書】2007年に宝島社から出た『「やさしい」って、どういうこと?』(2009年に文庫化改題)の電書版です。宝島社は紙の書籍に拘泥して電子書籍をまったくやる気がないようなので、再編集版を協会からKDP使って出しました。タイトルは初出に戻したほうがよかったかな、と後になって思ったのですが……。(^^;

[新装版]老病死に勝つブッダの智慧

[新装版]老病死に勝つブッダの智慧

 

2008年に出た『まさか「老病死に勝つ方法」があったとは―ブッダが説く心と健康の因果法則』(2009年、サンガ新書化に伴い改題)を単行本サイズで新装版として再発したものです。

視野狭窄になりがちな親子の関係を輪廻と業という巨大なスケールで俯瞰して、互いの「学び合いの関係」として捉えなおす視座を提供してくれる一冊です。ちなみに第五章「親子関係のしまい方」では、孫との接し方や、自ら死に向かって執着を捨てる訓練についても説かれています。子育て世代に限らず、幅広く読まれてほしい本です。

【電書】2014年に刊行された協会施本が底本。電書化にあたり文意がより明確になるようスマナサーラ長老から一部加筆を賜りました。「言葉は人生を潰す重荷にもなり、成長の頂点に立たせる力も持つ」という宣言から始まる、ブッダの実践言語学とも言うべき緻密な作品です。人間らしい生き方を左右する感情と理解能力。言葉の問題を考える上で避けて通れない洗脳とマインドコントロールの分析。ひとの人生を設定する言葉の重み。そして、ブッダが教えた幸福になるための言葉の使い方。日常会話に限らず、SNSなどで言葉を発信する機会の多い現代人にとって、戒めとなるポイントが数多く示されています。

【電書】2008年刊行の拙著を増補改訂しました。詳細は以下のブログ記事で紹介済みです。つぎはぎだらけではありますが、最近の近代仏教史研究に関する成果を概観した「電書版あとがき」などまだこのジャンルの基本書としてのクォリティは失っていないと思うので、未読の方はぜひ目を通していただきたいと思います。

naagita.hatenablog.com

【電書】 2009年刊行の同タイトルを電書化。朝日カルチャー講義「初期仏教入門」うをもとに構成された作品です。タイトル通り、智慧を「人生の羅針盤」として生きるために、仏教の基本的な概念をしっかりと学び直す本で雨。3章までは初期仏教から見た、生きるとは何か?、生きるとは何かと知ったうえで我々はどう生きるべきか?という分析です。4章・5章は仏教における理想の境地である「涅槃」について論じられています。「悟り(さとり)」は日本独自の言葉で「覚り」こそが真理への目覚め。解脱とは得るのではなく、ただ捨てるだけ。涅槃とは決して語れない。……といった根本的で刺激的な言葉の数々にぐいぐい引っ張られます。読後は仏教知識がデフラグされたような爽快感に包まれることでしょう。

【電書】 初出は2004年のロングセラー(協会刊)。何冊かある子育てをテーマにしたスマナサーラ長老の本のなかでも定番といえる一冊を電書用に再編集しました。冒頭で、育児の基本となる「人生の目的」について問い直し、現代人を悩ます子育てに関する固定観念を巧みに解きほぐします。中盤から後半にかけては、吉祥経や六方礼経(シガーラ経)から親子関係の極意を学びます。締めくくりに登場するラーフラ尊者と父であるお釈迦さまの対話は本当に感動的です。巻末収録された小学三年生の女の子から長老への9の質問も、はっとさせられる内容で、子育ての当事者以外にも勉強になることが多い一冊です。

スマナサーラ長老がご自身のこれまでの歩みと経験に照らしながら、人間が幸福に生きるための道筋を示したエッセイ集です。「いま、自分が何をするべきなのか。どうしたら最善を尽くせるのか。常に考え、判断し、実行してください。成長の歩みを止めないようにしましょう。それが大人の条件です。」(本文より)長老が仰る「大人の条件」、身に沁みます。

【電書】2007年に単行本が出たロングセラー(2011年サンガ選書)の電書化。ひとは誰でも、複数の「顔(性格)」を使い分けて世間を渡っています。貪瞋痴に突き動かされつつ、決定的な破たんを避けようと、本音と建前の相反する心を切り替えて生きています。自分とは確固たるものではなく、煩悩と体裁のあいだで絶え間なく変化し続ける代物に過ぎません。「本音」に渦巻く悪を「建前」の善で隠そうとする自己欺瞞の過程で、我々のアイデンティティは必然的に断片化されるのです。この自己欺瞞なしに、一日たりとも正常な社会生活を送ることは適わないでしょう。「善を行うつもりで、善を演じる」という「こころの騙し機能(ワンチャカダンマー)」によって、修行者の人格向上もまた妨害されているのです。この矛盾を打開する処方箋はあるのでしょうか?……という重厚な一冊です。

【電書】2011年に出た単行本の電書化です。タイトルは縁起の分析ですが、過半を占めるのは四漏、五蓋(六蓋)、七随眠、十結、三十七菩提分法(四念処、五力、七覚支、八正道など)といったパーリ経典に頻出するキーワードを、アビダンマ哲学の心・心所論に当てはめていく摂集分別。アビダンマ哲学のテクニカルタームと、実際の仏説たる経典の言葉との差異にモヤモヤしていた読者の気持ちが、やっとここで(ある程度)スッキリするという塩梅です。後半の縁起編は難解ですが「昔も今も、私は苦しみとその原因について語っている」という釈尊の言葉に沿って、実践に役立つポイントを抽出した解説が施されており、ラストの瞑想編(7,8巻)へのブリッジに相応しい内容。やはり全巻通してすごい作品と思います。 

無我―「私」とはなにか― (サンガジャパンVol.26)

無我―「私」とはなにか― (サンガジャパンVol.26)

 

こちらはまだ電書版が出てませんね。スマナサーラ長老と前野隆司先生の対談「『私』とは幻想である――仏教と幸福学の対話 心とは何か? 幸せに生きるとはどういうことか?」お手伝いしたのと、パーリ経典解説 連載第二回「スッタニパータ(経集)第五「彼岸道品」一、アジタ仙人の問い〔後編〕」構成を担当しました。

「ためこみ」という現象をモノ・ココロの両面から分析し、正しい自己管理を学ぶ本です。ゴミや悪感情は勝手にたまるけど、価値あるものや善感情は努力しないとたまらない、という指摘は辛辣です。最終章では、「ためる」(俗世間)から「捨てる」(出世間)への価値転換が説かれるあたり、仏教書としての筋がビシッと通っていてカッコいいです。

般若心経は間違い?

般若心経は間違い?

 

【電書】2007年の刊行以来、大きな波紋を惹き起こしたスマナサーラ長老の代表作です。日本はもとより、大乗仏教の影響を受けた東アジア諸国でもっとも有名な経典『般若心経』を初期仏教の角度から批判的に読み解き、併せてお釈迦さまが説かれた「空」や「無我」の真理を開顕する挑戦的な内容です。テーラワーダやパーリ仏典に関する書籍が豊富に刊行されている現在に比べれば、まだまだ初期仏教の認知度が低かった時期の著作です。それだけに、主観的な「マイ仏教」の培養液のごとき『般若心経』をなんとなく愛好してきた日本社会に一石を投じ、ブッダ本来の教えに「覚醒させる」効果は抜群だったろうと思います。底本は文庫化を経て、しばらく版元品切れとなっていました。電書化を機に、また新たな読者と仏縁を結べることを願っています。 ……Amazonのカスタマーレビュー読めば分かりますが、いわゆる「なんでも突き詰めれば一緒」とか安易にいっちゃうスピリチュアル系の人には非常に癇に障る内容なので、一種のリトマス試験紙のような本になってます。さて、あなたはどうでしょうか?

【電書】去年のまとめで紹介しましたが、単行本も刊行日付は今年1月になってましたね。 約半年遅れて電書化。7,8巻に分冊されていた『ブッダの実践心理学』の完結編、サマタ瞑想編とヴィパッサナー瞑想編を増刷のタイミングで一冊にまとめた作品です。テーラワーダ仏教のさまざま冥想実践と、ヴィパッサナー実践による智慧(観智)の開発プロセスが体系的に解説されている必読の書です。

 2013年刊行の単行本を文庫化。施本として頒布された長老のパーリ経典解説から、冥想をテーマにした5つの作品を加筆修正した選集です。中部117『大四十経』を扱った1)『八正道大全-ブッダの「偉大なる四十の法門」』では、仏道の根幹である八正道について、善なる(有漏)八正道と聖なる(無漏)八正道という二段階で説明されます。2)『瞑想による覚りへの道 お釈迦様のお見舞い』は、相応部六処篇『疾病経』(一)の解説。病気の比丘たちへの指導とあって、ヴィパッサナーはこれだけ読めば分かる、と言えるほど簡潔にして的を射た記述です。3)『勝利の経』は身体の「不浄」を観察する有名な経典で、『スッタニパータ』に収録。4)『常に観察すべき五つの真理』は増支部五集より。老・病・死・別離・業という五つの真理を念ずる冥想経典。5)『サッレーカ・スッタ 戒め-「自己」の取扱説明書』は、中部8『削減経』の解説。44の道徳項目を念じて自己を戒める冥想実践が詳説されます。最近、初期仏教の実践は〇〇メソッドなど特定の型にはまった行法と見なされがちです。本書を通してお釈迦さまの指導にじかに触れることで、より自由かつ精緻な「気づき(sati)の世界を垣間見れると思います。ちなみに電書化はまだです。

禅ー世界を魅了する修行の系譜ー(サンガジャパンVol.27)

禅ー世界を魅了する修行の系譜ー(サンガジャパンVol.27)

 

以下のブログ記事で詳しく紹介済み。スマナサーラ長老の連載「パーリ経典解説3 スッタニパータ(経集)第五「彼岸道品」二、ティッサ・メッテイヤ仙人の問い」で構成を担当しました。 長老と藤田一照師の対談「テーラワーダからみた禅」(連載第一回)もお手伝い。

naagita.hatenablog.com

【電書】2002年にスタープレスから刊行された同タイトルの電書再編集版です。長老の著作としては最初期のヒット作で、わりとイケイケの自己啓発本っぽいタイトルと見出しは時代を感じさせます。もちろん内容はいま読んでも素晴らしく、「気づき」の実践によって心のポテンシャルを高め、よりよき人生を歩もうという仏教的な前向き思考で貫かれています。読後感も爽快なので、ぜひお手元のスマホなどにご常備ください。 

ここ数年、恒例となっていたスマナサーラ長老監修の月めくりカレンダー新作です。去年までの絵手紙風から新規一転、「猫」とのコラボ企画となりました。近年の住宅事情なども考慮して、サイズを小さめに変更しています。ダンマパダを意訳した「こころおだやかにニャる」言葉と愛らしい子猫写真は、なぜか絶妙に合ってます。一月の言葉は「心を守るならば、幸せになれる」(ダンマパダ35偈)。解説文も「すべての現象は無常です。家族も財産も、健康や命さえも、絶えず変化して壊れていきます。守りきれるものではありません。一つだけ守れるもの、それは自分の『心』です」云々と、猫の可愛さにデレデレせず、直球の初期仏教を伝えていますね。ちなみに、裏表紙の長老写真も子猫とのツーショット!

【電書】初出は2015年の協会施本。忍耐・堪忍というキーワードから、ダンマパダ『諸仏の教え』を修行完成に至る実践論として解説した類書のない法話です。法門に初級も中級もありませんが、仏法のシンプルだけど底知れない凄さを読み取れる本だと思います。

2015年に刊行された『執着の捨て方』を文庫化した作品です。遠離から喜びが生じる~』の講義内容をもとにして構成された作品。仏教で説かれる四種の執着(ウパ―ダーナ)の解説と、そこから自由になる練習法を教えてくれます。電書はありませんね。

仏教と科学が発見した「幸せの法則」

仏教と科学が発見した「幸せの法則」

 

幸福学の提唱者として知られる前野隆司先生(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授)との対談集です。話題は多岐にわたりますが、「人間(生命)にとって幸福とは何か? そして人間(生命)が幸福に達するための筋道とは何か?」という太い問題意識に貫かれており、飽きさせません。帯に掲載された推薦者お二人の言葉もふるっています。

幸福についての議論は、時に表面的なものになりがちだ。ロボット工学、意識の科学、幸福学の知見が、仏教の思想、実践、伝統と響き合う本書は、深い本質の部分での「幸福論」を提供している。知的好奇心と感情の両方が満足する、稀有な本である。(茂木健一郎

『私』の実存を否定することでヒトは幸せになる――。本書ではそんな火の玉のように熱い議論が、しかし静謐に展開されます。そして、読み終えた私の中に新しい自分像が芽生え、なぜか不思議と安堵するのです。(池谷裕二

どうです? 読書意欲が湧いてきませんか?電書も近々に出るはずです。そういえば、 前野隆司先生はご自身のブログにて、単行本で割愛されたやり取りを振り返りこう述べています。

ただし、一つだけ少し残念な点がありました。対談の中で一番面白かった点が、本からはカットされた点です。長老が「日本の大乗仏教はまちがっている!」とかなり強い口調でおっしゃるので、僕は聴きました。

「長老は『怒らないこと』(サンガ新書)というベストセラーを書かれているわりには、憤りを強くあらわされますね」と。怒っているように見えたからです。すると、長老はおっしゃいました。

「怒っているんじゃないよ。笑っているんだよ!」と。詳しく書くと以下のとおりです。

「私は怒りは感じません。馬鹿なことをやっている人たちを見ていると、どうしてそんなことをするのかと、楽しくなるのです。腹は立ちません。「チャンスがあったら教えてあげますよ」という気持ちなのです。皆がなんだかおかしなことをやっているのが透けて見えるので、私は笑っているのです。」

怒っていると思ったら、笑っていたとは。文化が違うと、感情表現は違うのだなあ、と驚きました。

本を読んだ方は、長老はかなり穏やかな方だと思われるのではないかと思いますが、実は、日本の価値観から見ると、かなり情熱的な方だと感じました。上座部仏教大乗仏教の違いなのか、スリランカなどの南国と日本のような北のほうの国の違いなのか。僕は自分が自文化中心主義には陥っていないつもりでしたが、文化横断的な視点から世界を見ることの難しさを改めて感じた対談でした。

Takashi Maeno's blog |2017年10月

長老の法話や雑談に何度も触れると、怒っているようだが本人は面白がって笑っている、という独特のノリをそういうものかと受けとめる体勢(耐性)ができるのですが、初めて接する人はやっぱ怒っていると感じるんだ……。でもそこのギャップが対談で一番面白かったと素直に言っちゃう前野先生もかなりぶっ飛んでますね。とにかく、人によっていろんな読みどころが発見できる良著だと思いますので、未読の方はぜひどうぞ!

【電書】1998年に大法輪閣から刊行され、20年近く読み継がれてきたロングセラーが電書になりました。「心の成長」がブッダの教えの核心であることを多角的に説いた仏教入門書です。いま読んでもまったく古さは感じません。世紀の変わり目に本書を読み、まさに「常識が一変」した思いがして、当時は目白にあった協会事務局に電話をかけたのは僕です。

【電書】日本テーラワーダ仏教協会の月刊機関誌『パティパダー』長期連載中の「釈尊の教え・あなたとの対話」をテーマ別に再編集したQ&Aシリーズの第一弾。AmazonKindle用電子書籍オリジナル企画です。毒舌とやさしさと力強さがコンボで降り注ぐスマナサーラ長老のQ&Aはまとめて読むと迫力も倍増です。きっと人生に立ち向かう勇気が湧いてくると思います。内面に向き合う人のための「こころ編」は年始早々に第2巻が刊行予定。以下、対人関係に関する悩みを集めた「人間関係編」、子供についてのあれこれ「教育編」、より良く生きるためのヒントが詰まった「ライフハック編」が出版に向けて鋭意準備中です。

↓※「こころ編2」予約受付しております!

……

……… (゚∀゚)アヒャ

……

というわけで駆け足で紹介してきましたが、手抜きして記事一本にまとめようと思ったら大変なことになったわ、という感じです。徐々に原始書籍から電子書籍に軸足を移しつつありますが、来年も楽しくてためになる仏教書づくりに励んでいきたいと思います。

それでは、皆様よいお年を!(^^♪

 

~生きとし生けるものが幸せでありますように~

(私の心の汚れが徐々に無くなりますように)