大アジア思想活劇――仏教が結んだ、もうひとつの近代史 Kindle版が出ました
このたび、拙著『大アジア思想活劇――仏教が結んだ、もうひとつの近代史』(サンガ,2008)の電子書籍版が刊行されました。版元の方針で、AmazonKindleのみの配信となっています。
電書化にあたって最近の近代仏教史研究に関する成果を概観した「電書版あとがき」を加筆しました。ネットで公開されている論文やレポートを含め、ちょっとした「最新版:近代仏教史ブックガイド」としても活用していただけると思います。
さらに、1章「オルコット大佐来日まで」,6章「インド洋の「仏教国」スリランカ」,17章「ミッションの船出・野口復堂の凱旋帰国まで」,18章「釈興然 日本に上座部仏教を伝えた留学僧(上)」19章「釈興然 日本に上座部仏教を伝えた留学僧(下)」,26章「フォンデス もう一人の白人仏教徒」には、【電書版追記】をしました。
追記を施したのは主に明治期の記述に関してですが、それだけ学術的な研究が進んだということですね。その他、いくつかの本文中の誤字や事実誤認を修正しています。書籍版を購入済みの方で、電書版あとがき&追記を読みたいという方がいらっしゃいましたら、PDFファイルを進呈します。メールかTwitter,FB等でご一報ください。
本書の核となる大学卒業論文(いまは亡き東洋大学の印度哲学科)の構想を練り始めたのは1993年の夏頃だったと記憶してます。フリーランスで暇こいてた時の再調査をへて配信したメルマガ「大アジア思想活劇~仏教と近代~」第一号が1999年6月19日。オンデマンド版「オンブック:『大アジア思想活劇』」を刊行したのが2006年7月。サンガから単行本したのが2008年9月。もう四半世紀にもわたるプロジェクトも、そろそろ本当に一区切りという感じです。
大アジア思想活劇というタイトル自体、まぐまぐ!の規約が宗教色を出したものはご法度だったための苦肉の策だったわけですが(最初期のタイトルは《大アジア思想活劇 111年前のインド旅行より》だった)、幸か不幸か「アジ活」との愛称で呼ばれるようになったので、単行本化の際もそのまま使って今に至ります。
電書化によって、バカ高かった(これもサンガの島影社長から、ハードカバーか並製かどっちにする?と訊かれて「じゃぁ、ハードカバーで……」と見栄を張った報い)価格も下げられたし、KindleUnlimitedに入ったので読み放題で手軽に読んでもらえるし……書き手としてはいいことづくめでした。つぎはぎだらけで無駄にエモい本書をきっかけにして、近代仏教史という迷宮に興味を持ってくれるかたが一人でも増えればいいなと願っています。
最後に、大アジア思想活劇の節目節目で適切な助言をくださった吉永進一先生(舞鶴工業専門学校)はじめ、各界「アジ活サポーター」の皆様にこころより感謝もうしあげます。ありがとうございました!
~生きとし生けるものが幸せでありますように~
おまけ:
大アジア思想活劇――仏教が結んだ、もうひとつの近代史 Kindle版総目次
はじめの口上
明治二十一(一八八八)年の天竺武勇談/近代仏教史の発見/白人ブディストと講釈師と「佛教復興」/アナガーリカ・ダルマパーラと日本/近代アジアを貫くカルマ/仏教という窓を通じて
第Ⅰ部 噺家 野口復堂のインド旅行
1 オルコット大佐来日まで
キリスト教の大攻勢/白人仏教徒からの手紙/『佛教問答』の翻訳出版/【電書版追記】
2 日本仏教と明治維新
近世仏教の姿/廃仏毀釈の惨状/仏教再評価のジレンマ/世界のなかの日本仏教
3 オルコット招聘運動顛末
オルコット招聘運動と平井金三/オルコット来ないなら寄付金返せ/義兄金三の窮地に復堂起つ
4 平井金三と野口復堂
平井金三の生い立ち/アメリカでの仏教講演・ユニテリアン・道会への参加/日本語はアーリア系と主張/心霊研究のパイオニア/平井金三の宗教観/野口復堂の生い立ち/インド旅行・万国宗教大会出席/教談の誕生/教談全盛時代/晩年の野口復堂/野口復堂の宗教観
5 神智学協会インドへ向かう
スリランカ仏教の恩人──その意外な素顔/ブラヴァツキー夫人とオルコット大佐/スピリチュアリズムの時代/運命の出会い/ラマ僧院の理想主義者/『ヴェールを脱いだイシス』/神智学協会インドへ!
6 インド洋の「仏教国」スリランカ
光り輝く島/インド文化圏への窓/シンハラ人とタミル人/仏教とナショナリズム/「仏教国」の危機/【電書版追記】
7 パーナドゥラの論戦
パーナドゥラで何が起きたのか?/論争の行方/グナーナンダの勝利/神智学徒からの手紙
8 白い仏教徒の闘い
神智学協会インド上陸/アーリア・サマージとの会見/仏教徒となった神智学徒/オカルティストの仏教理解/アディヤールへの本部移転/セイロン仏教の救世主/ウェサックの祝日化・仏教旗の制定/プロテスタント仏教
9 「ランカーの獅子」の誕生
その生い立ち/少年時代の原風景/ミッションスクールでの葛藤/神智学との出会い/アディヤールヘの旅/オカルトからパーリ語へ
10 ダヴィッドがダルマパーラを名乗るまで
ブラヴァツキー夫人のインド追放/ブラヴァツキー夫人、ロンドンに死す/仏教からメシア信仰へ──神智学協会の「変質」/スリランカ奥地への旅/シンハラ・ナショナリズムの目覚め
11 野口復堂 コロンボでの出会い
コロンボ上陸まで/ダルマパーラとの出会い/神智学協会の客人として/アフマド・アラービーとの会見
12 野口復堂 セイロン珍談集
スマンガラ大長老との会見/コロンボで出会った日本人僧侶/スリランカ仏教のあらまし/スリランカのカーストと上座部仏教の強度/スポーテーの戒律珍問答/ランチタイムの椰子問答/変な仏像/宇源・源智の観音ご利益コント
13 野口復堂 ついにインド上陸
南の島の天長節/ダルマパーラとともにインドへ発つ/夢想兵衛が栄華の夢か──トゥティコリンの熱狂/一路アディヤールへ
14 明治日印交流史
島地黙雷の欧州歴訪とインド上陸/北畠道龍のブッダガヤ巡礼/インド公式訪問第一号 多田元吉/お雇い外人モレルについて/外国人婿養子第一号になったインド人
第Ⅱ部 オルコット大菩薩の日本ツアー
15 マドラス寄席の長名話
トゥティコリンからマドラスへ/マドラス改名とタミル・ナショナリズムについて/ついにオルコットとまみえる/オルコットの牛車/インドで落語「長名話」を披露/インド随一の梵語学者を梵語で泣かす/「長名話」にマドラス中が騒然
16 長名話の縁起
笑福亭 梅香 バッシヤチャリヤ/長名話の系譜/桂米朝と長名話/ダラニの由縁と法華経『陀羅尼品』について/長名話の盛衰に関する考察/スペシャル・デレゲート野口復堂
17 ミッションの船出・野口復堂の凱旋帰国まで
分断されたインド社会/百六歳の老翁との対話/パッチャパス・ホールでの大演説/野口復堂は日印交流の先駆け/南北仏教徒を結んだミッション/スマンガラ大長老の公式書簡/ついに凱旋帰国/【電書版追記】
18 釈興然 日本に上座部仏教を伝えた留学僧(上)
日本スリランカ仏教交流の始まり──釈雲照の祈願/釈興然をセイロンに導いた人々/森鴎外より漢詩を送られる/日本人初の上座部仏教僧侶の誕生/【電書版追記】
19 釈興然 日本に上座部仏教を伝えた留学僧(下)
林董と明治仏教/日本の上座部仏教教団設立へ/日本は「大乗相応の地」か/河口彗海をスカウトする/「小乗仏教」を信じるということ/興然と宗演──セイロン留学僧の対照的な生きざま/タイ王室に招かれる──晩年/菩提樹の浮き彫り──釈迦牟尼ヘの追慕/墓碑/【電書版追記】
20 「十九世紀の菩薩」オルコット日本来訪(上)
オルコットの上陸/日本仏教界の大歓迎/オルコット 先祖に会わす顔がない/知恩院での最初の演説──ペリー総督の再来/管長会議で仏教統一を説く/オルコットの日本行脚
21 「十九世紀の菩薩」オルコット日本来訪(下)
オルコットの上京/日本仏教への苦言/『反省会』のネットワーク/『海外仏教事情』と高楠順次郎
22 病床のダルマパーラ
ダルマパーラの入院/オルコットの霊能力/日本人の熱心な称賛者/英語文献を通じた「伝統」との再会/仏教復興は民族独立ヘの道
23 オルコット来日がもたらしたもの
オルコット帰国と日本人留学僧渡印/南北仏教を結んだ功労者/オルコット・ブームへの警戒/お雇い外人ベルツの見たオルコット/川合清丸とオルコットの『論争』/国粋主義と仏教/普遍への窓としての仏教/忘れられた「救世主」
24 ブッダガヤ復興運動の開始
この地に留まれ、そしてこの聖地に奉仕せよ/ブッダガヤと神権領主マハンタ/ブラヴァツキーの訃報──ひるがえる仏教旗/日本でも燃え上がった仏蹟復興運動/『国際仏教会議』の開催/ブッダガヤに「日本の野望」を見た植民地当局
25 オルコット再来日・蜜月の終わり
オルコットの日本再訪
十四ヶ条の信仰条規/国際仏教徒連盟の設立を目指す/神智学協会の内紛──覚醒と憎悪のネットワーク/日本で拒絶された「仏教十字軍」/神智学は仏教なのか? 揺れ動いた日本仏教
26 フォンデス もう一人の白人仏教徒
神智学協会と日本仏教を断ち切った男/日本仏教の代弁者/「海外宣教会ロンドン支部」を設立──神智学批判を展開/ダルマパーラの苦言/高楠順次郎の英国留学/高楠とフォンデスの交流/神智学をめぐるカオス/その後のフォンデス/【電書版追記】
第Ⅲ部 ランカーの獅子 ダルマパーラと日本
27 シカゴ万国宗教大会 仏教アメリカ東漸
「ランカーの獅子」カルカッタに拠る/『大菩提雑誌(The Maha Bodhi Journal)』の創刊/シカゴ万国宗教大会/テーラワーダ仏教の代表として/万国宗教大会と日本仏教/アメリカ「初転法輪」の誓い/オセロとキリスト/宗教面での国威掲揚
28 ダルマパーラ二度目の来日
フォスター夫人との出会い/二度目の来日──日印交流を訴える/日本仏教徒からの贈り物/足早の帰国/ブッダガヤ復興運動への疑念/土宜法龍のレポートより/幻の仏教国/釈雲照の珍談/牛を食う奴は手を挙げろ!
29 「日本の仏像」インドで大暴れの巻
ブッダガヤ奪還の切り札/ブッダガヤへ帰った日本の仏像/マハンタの暴行/仏像の移転命令 日本仏教徒の怒り/日印のかすがいだった阿弥陀像/薄れていった興奮/カリスマの誕生
30 大拙・慧海・ダルマパーラ
近代日本仏教を代表する巨人/鈴木大拙の生い立ち/河口慧海の生い立ち/三会寺での出会いと別れ/大拙の渡米とダルマパーラ/ラサールでの書生暮らし/鈴木大拙とダルマパーラ、アメリカでの交流/河口慧海とダルマパーラ、ブッダガヤの出会い
31 ダルマパーラ一九〇二年の来日
アメリカでの布教活動/インド大飢饉救援と日本の「骨騒動」/神智学協会との訣別/セイロンでの活動/インド大旅行/三回目の来日──活動仏教の提唱/日英同盟と日印協会の設立
32 ダルマパーラと田中智学の会見(上)
二人の「獅子」の出会い/田中智学とはいかなる人か?/田中智学の活動/ダルマパーラと智学の出会い/要山師子王文庫での会談/小町霊跡でのやりとり/対鶴館における談話──日蓮伝記と英訳法華経/対鶴館における談話──天竺に仏法なし/対鶴館における談話──皇室の信仰・インドの虐政
33 ダルマパーラと田中智学の会見(中)
対鶴館における談話──ダルマパーラの「悪評」/対鶴館における談話──日蓮宗の海外布教を促す/対鶴館における談話──樗牛との別れ
34 ダルマパーラと田中智学の会見(下)
瀧口での談話──「予は比丘にあらず、優婆塞にあらず」/瀧口での談話──仏教信仰と実践をめぐる智学との「論争」/二人の別れと後日談/日露戦争と「人種闘争の世紀」の幕開け/岡倉天心の渡印について
35 血の轍
シンハラ仏教ナショナリズムの誕生/「アーリア人種」の痕跡を求めて/文明と血脈/四たび「日出づる国」へ
36 冷遇された最後の来日
ダルマパーラへの冷遇/仏教運動という空虚/印度の志士ダルマパーラ/汎アーリア主義の叫び/『道会』での講演録/革命の坩堝・試練の道へ
37 その後のダルマパーラ
セイロン暴動/日英同盟下のインド支援/一九一五年セイロン暴動の背景について/晩年──サールナートに拠る/ダルマパーラの死
38 サールナート寺院壁画と野生司香雪
インドからの呼びかけ/詩聖タゴールの激励/サールナートでの画業/ダルマパーラとの衝突/相次ぐ外護者の死/成就の墨跡
39 ひとつになった仏教世界(上)
仏教ルネッサンスの時代/『海外仏教事情』誌における南北仏教対話/大東亜共栄圏と日本仏教・ひとつの事例/クリスマス・ハンフレーズと「仏教の十二原理」
40 ひとつになった仏教世界(下)
世界仏教徒連盟会議とサンフランシスコ会議/仏教伝来から千四百年目の「仏教世界の連合(ユナイテッド・ブッディスト・ワールド)」/パール博士とWFB大会/広島を癒した仏舎利/「仏教国日本」の再建とアジア仏教徒の受難
41 仏教とアジア近代史再考
日本とスリランカ・それぞれの近代仏教/ダルマパーラの日本礼賛と「アーリア主義」/日本仏教への挑発者/近代仏教史という問い/私たちは「仏教国日本」を生きている
おわりに 広島の二葉山平和塔をめぐって
二葉山平和塔の落成式/広島から消えた仏舎利/世界仏教徒の事業となった仏舎利塔建設/藤井日達の二葉山仏舎利塔計画/迷走する比治山仏舎利塔計画/広島を去った仏舎利
あとがき
電書版あとがき
参考文献
年表