2016年に読んだ仏教の本つれづれ

今年はランキング的なことはやめて代わりに「2016年第一回「ひじる仏教書大賞」を発表 - ひじる日々」とぶち上げてみたのですが、年末で興に乗ってきたので、今年読んだ仏教関連の本について寸評していきたいと思います。

聖徳太子: 実像と伝説の間

聖徳太子: 実像と伝説の間

 

石井公成『聖徳太子 実像と伝説の間』春秋社。著者の石井先生からご恵投頂きました。古代史ものは固有名詞を追うだけで一苦労ですね。太子を巡る壮大な言説史を俯瞰しつつ、仏典と日本書紀などの対応に目配りしながら、悠然と語られる聖徳太子伝。骨のある読書をしたい方におススメです。

ブッダが説いたこと (岩波文庫)

ブッダが説いたこと (岩波文庫)

 

ワールポラ・ラーフラブッダが説いたこと』岩波文庫青343-1。スリランカ出身の学僧が初期仏教のエッセンスを解説した良著です。スマナサーラ長老に比べると論調はちょっとゆるふわで通仏教的なので、食い足りない人もいるかもしれません。第六章「無我(アナッタ)」が特に読みどころでしょうか? 英語版はネットにあるので併読も勉強になってよいでしょう。ただ訳者の今枝氏による解説はブータン礼賛に偏りすぎで、ちょっとどうでもいい感じです。

naagita.hatenablog.com

4月に公開した上記記事などでも触れましたが、この時期に著者の方々からご恵投いただいた三冊の仏教書、どれも重厚な作品でした。もう一年分おなか一杯という 笑

近代仏教スタディーズ: 仏教からみたもうひとつの近代

近代仏教スタディーズ: 仏教からみたもうひとつの近代

 

『近代仏教スタディーズ 仏教からみたもうひとつの近代』法蔵館なんども触れましたが、 2016年第一回「ひじる仏教書大賞」受賞作品です。なにより、歴史や思想を見る視野が広がる体験が面白い本だと思うので、ぜひ読んでください。

仏教をめぐる日本と東南アジア地域 (アジア遊学 196)

仏教をめぐる日本と東南アジア地域 (アジア遊学 196)

 

大澤広嗣・編『仏教をめぐる日本と東南アジア地域 (アジア遊学 196)』勉誠出版こちらも近代仏教に関する共同研究の最新成果です。テーラワーダ仏教圏でもある東南アジア地域と日本仏教がどう関わっていたのか? 現代日本におけるテーラワーダ仏教の広まりの背景を知るうえでも重要な著作だと思います。なかでも、藤本晃先生の「参与観察」にもほどがあるレポートが壮絶です。ちなみに大澤先生の『戦時下の日本仏教と南方地域法蔵館は、購入したけどまだ通読できてません……。

石飛道子『『スッタニパータ』と大乗への道 ブッダの教えはどのように大乗仏教に引き継がれたのか?』サンガ。札幌ダンマサークルでも勉強会の講師をしてくださっている石飛道子先生が『スッタニパータ』の第四章「八偈品」 を新たに訳しつつ読みこんだ作品です。パーリ語の文法用語なども出てくるので仏教書読みの中級者がターゲットかもしれませんが、著者のガイドに沿ってブッダの直説に触れていくうちに心が静寂になっていく素晴らしい読書体験でした。「法にしたがった法の実践ということを特に意識して」読み進める著者の真摯な姿勢がそうあらしめたのでしょう。ちなみに本書に刺激されて、スマナサーラ長老にスッタニパータ第五章「彼岸道品」講義をお願いすることになりました。その最初の講義まとめが『原始仏典――その伝承と実践の現在―― (サンガジャパンVol.25)』に載ってます。来年以降に順次単行本化すると思いますので、お楽しみに。

アショーカ王碑文 (レグルス文庫)

アショーカ王碑文 (レグルス文庫)

 

塚本啓祥『アショーカ王碑文』レグルス文庫。新刊ではありませんが、第三文明社のレグルス文庫はKindleUnlimitedに入っているんですよ。いわずとしれたアショーカ王の碑文を和訳・解説した作品です。政治とは何のためにあるのか、と考えるための古典でしょう。アショーカ王の治世方針は、東南アジアやスリランカによく見られる人気取りのために仏教の守護者ぶる権力者のありかたとはぜんぜん違うことがわかります。信仰のいかんにかかわらず、政治家の皆さんの書架に漏れなく刺さっていてほしい一冊です。

従って、私がどのような努力をなそうとも、〔それは〕有情に〔負うている義務の〕債務を履行するためであり、更に、かれらを現世において安楽ならしめ、また来世において天に到達せしめるためである。

『歎異抄』 2016年4月 (100分 de 名著)

『歎異抄』 2016年4月 (100分 de 名著)

 

釈徹宗『NHK 100分 de 名著 『歎異抄』』NHK出版。安定の釈先生という感じ。短い本なのに、読み落としてたポイントいろいろ教えて頂きました。これもkindleで読みました。っつーかほんと電書手放せなくなりましたね。

入門 近代仏教思想 (ちくま新書)

入門 近代仏教思想 (ちくま新書)

 

碧海寿広『入門 近代仏教思想』ちくま新書。こちらもすでにブログで紹介しました。井上円了清沢満之、近角常観、暁烏敏倉田百三(ともに真宗大谷派)の事績を個別に紹介しながら、近代における日本仏教の変容を上述のような「仏教の教養化の展開」として描ききった非常に刺激的な作品(暁烏敏の毒電波に当てられて、後半はちょっと疲れましたけど、この後味の悪さもまた近代仏教研究の魅力)です。『近代仏教スタディーズ』のイントロダクションとして読まれるのもいいのではないでしょうか?

戦後歴史学と日本仏教

戦後歴史学と日本仏教

 

オリオン・クラウタウ編『戦後歴史学と日本仏教法蔵館こちらも「2016年第一回「ひじる仏教書大賞」を発表 - ひじる日々」にて紹介済み。近過去における歴史学研究の流れを振り返っての自己言及ということで、読者は選びそうですが、僕なんかは真剣に読まなければいけない本だと思いました。

『井上貫道老師提唱録』タイトルがやけに長いので省略。kindleで読みました。曹洞宗には珍しく?覚りということを否定してない(「修証一等」みたいな寝言を言わない)老師様だそうです。テーラワーダ仏教をかじってる偏見で読んでも、なるほどと思わされる内容でした。今年の収穫といってもいい一冊です。

どんないいものでも、掴んだら不自由になるということを、よく知っておいて欲しい。何にも掴まないと、握っていないと、どこに行っても何か忘れてきたんじゃないかって探さなくていいんですね。

鉄道が変えた社寺参詣―初詣は鉄道とともに生まれ育った (交通新聞社新書)
 

平山昇『鉄道が変えた社寺参詣』交通新聞社新書。近代化の象徴たる鉄道が江戸期からの庶民信仰にブーストをかけつつ、その内実を変容させる様を活き活きと描いています。ほんと目から鱗の連続で、必読の快著です。これもkindleで読みました。

結論を先取りして言えば、「初詣」は鉄道の誕生と深くかかわりながら明治中期に成立したもので、意外にも新しい行事なのである。この新しい行事が定着してしばらくたって、後を追うように明治末期以降に俳句の世界に「初詣」という季語が登場した

捨ててこそ人生は開ける―「苦」を「快」に変える力
 

他阿真円『捨ててこそ人生は開ける 「苦」を「快」に変える力』東洋経済新報社今年、運転免許返上でも話題になった時宗法主の自伝です。刊行された2013年に読んでますが、KindleUnlimitedに入っていたので再読したら、またいろいろと発見ありました。法話というより、一世紀近く活動的に生き抜いてきた(地方政治家としてのキャリアも長い)僧侶による近代史の証言ですね。

私は昭和二四年(一九四九)から五〇年以上、保育園長を務めてきました。そして、三歳未満児保育や長時間保育を昭和四〇年(一九六五)頃、岡崎市ではじめて導入しました。まだ国の補助もない時代でした。当時、働くお母さんたちは皆、乳幼児を預ける場所がなくて、仕事に戻れなかった。それを応援したかったのです。

南方戦線での過酷な体験談、インドネシアからの引き揚げ時に「大本営発表」の立役者である馬淵逸雄・元陸軍少将と交流した逸話などもさることながら、こういった戦後の足跡も興味深いのです。他阿真円上人、一度お見かけしたことあるんですけど、ほんとチャーミングなおじいちゃんですよ。(^^♪

上座仏教事典

上座仏教事典

 

『上座仏教事典』めこん。こちらもブログ過去記事で紹介済みですが、パーリ語中心の仏典研究とアジア地域研究の両面から上座仏教テーラワーダ仏教)を総合的に扱った世界初の大著。画期的な事典です。ただダルマパーラとか、ダルマパーラとか……自分で調べた経験のある項目については、あれ、事実関係が違うんじゃね?という気になるところもあります。ぜひ増刷、電子化とさらなる普及を図りつつ、アップデートしてほしいものです。

増支部経典 第一巻

増支部経典 第一巻

 

浪花宣明・訳『増支部経典1(原始仏典IIIシリーズ)』春秋社。故・中村元博士発願によるパーリ経典の現代語訳シリーズもいよいよ増支部に突入。無意味に単価を上げていた箱を廃止したのは良いことと思います。あと電書化もぜひよろ!複数訳で註釈も淡泊なので大蔵出版の片山先生個人訳に比べて、なんつーか使い勝手悪いところもあるんですけど、個人的に大好きな増支部(アングッタラ・ニカーヤ)初の現代語訳ということで諸手を挙げて喜びたいと思います。

相応部(サンユッタニカーヤ)蘊 篇 II (パーリ仏典 第3期6)

相応部(サンユッタニカーヤ)蘊 篇 II (パーリ仏典 第3期6)

 

片山一良・訳『相応部(サンユッタニカーヤ)蘊 篇 II (パーリ仏典 第3期6)』大蔵出版そんでこちらが、片山先生個人訳のパーリ経典現代語訳シリーズ最新刊ですね。いろいろ講演サマリー案つくってスマナサーラ長老に「こんなんどうでしょ?」と提案する時、なんといっても頼りになるのはこのシリーズです。片山先生におかれましては、ぜひ増支部まで訳経を完遂していただきたいものです。

 

ほかにも仏教書ではないけど、これって仏教的な歴史書だなぁ、と思ったユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福河出書房新社とか、まだ紹介したい今年読んだ本はありますけど、だいぶ長くなってしまったのでこの辺で。

 

~生きとし生けるものが幸せでありますように~