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2016年第一回「ひじる仏教書大賞」を発表

ひじる日々 本の話題

えーと、唐突ですけど当ブログで賞を作りました。

名づけて「ひじる仏教書大賞」です。

その年にブログ主が読んだ仏教書の新刊から、これはという作品を顕彰したいと思います。副賞とか、特にないんですけど。

さっそく2016年の仏教書から始めます。

 

第一回「ひじる仏教書大賞」は……

大谷栄一・吉永進一・近藤俊太郎 編
『近代仏教スタディーズ』法蔵館

です。もうTwitterでもその旨お知らせしたので、なんのサプライズもありませんね。しかし、これは文句なしの名著だと思います。

近代仏教スタディーズ: 仏教からみたもうひとつの近代

近代仏教スタディーズ: 仏教からみたもうひとつの近代

 

最近盛り上がりを見せている近代仏教研究の最新成果を29人もの研究者がよってたかって紹介するという入門書的な作品です。まだカオスなところもある分野だけに、「迷宮散歩」への誘いだと編者の吉永進一先生も仰ってます。その吉永先生の「はじめに」から一文字&コマの無駄もない知の宝庫だと思います。あと、人物相関図に出てくる数々の似顔絵(宗教学者の内藤理恵子さん作)が、イメージを豊かにする上でもすごくいい効果をあげています。図書コーナーでは、拙著『大アジア思想活劇―仏教が結んだ、もうひとつの近代史』も取り上げて頂いてます。仏教への興味は薄くても、近代史や広く人文科学全般に関心がある人ならば、マストバイでしょう。版元の法蔵館もなかなか気合が入っていて、関連ブックフェアの他、近代仏教スタディーズ刊行記念サイト が開設されました。

あと、今年出た近代仏教ものの本のなかで、もっともポピュラーな作品といえば、碧海寿広『入門 近代仏教思想』ちくま新書 でしょうね。本書のAmazonレビュー欄でのやりとりを通じて、伝説の宗教学&仏教書レビュアー「ソコツ」さんの正体が碧海寿広先生だと判明したことも、ネット界隈ではそこそこ大きなニュースとなりました。

入門 近代仏教思想 (ちくま新書)

入門 近代仏教思想 (ちくま新書)

 

"かつての日本において、寺院や僧侶の存在を抜きにして仏教について考えるなど、およそありえないことであった。だが、いまや寺院や僧侶の存在を念頭に置かずとも、仏教について考えることは十分に可能である。そして、そのような抜本的な変化をもたらしたのは、近代において本格的に開始され、次第に加速化していった、仏教の教養化の展開なのであった。"

井上円了清沢満之、近角常観、暁烏敏倉田百三(ともに真宗大谷派)の事績を個別に紹介しながら、近代における日本仏教の変容を上述のような「仏教の教養化の展開」として描ききった非常に刺激的な作品(暁烏敏の毒電波に当てられて、後半はちょっと疲れましたけど、この後味の悪さもまた近代仏教研究の魅力)です。しかし、しかし、近代仏教研究の沃野をカタログ的に一望できる『近代仏教スタディーズ』と併読してこそ、『入門 近代仏教思想』の理解も深まると思うのです。

それから、ちょっと専門書寄りになりますが、オリオン クラウタウ編『戦後歴史学と日本仏教法蔵館もまた、今年の収穫ですね。

戦後歴史学と日本仏教

戦後歴史学と日本仏教

 

帝国の廃墟の上に再構築される「日本仏教」!敗戦を経験した研究者一五人は「戦後」という新時代において、いかなる日本仏教像を示したか。総合的に考える画期的論文集。

目次:

家永三郎―戦後仏教史学の出発点としての否定の論理
服部之総―「生得の因縁」と戦後親鸞論の出発点
井上光貞―焼け跡闇市世代の歴史学
圭室諦成―社会経済史の日本宗教研究
古田紹欽―大拙に近侍した禅学者
中村元―東方人文主義の日本思想史
原一男―戦後歴史学と総合的宗教史叙述のはざま
森龍吉―仏教近代化論と真宗思想史研究
柏原祐泉―自律的信仰の系譜をたどって
五来重仏教民俗学と庶民信仰の探究
吉田久一―近代仏教史研究の開拓と方法
石田瑞麿―日本仏教研究における戒律への視角
二葉憲香―仏教の立場に立つ歴史学
田村芳朗―思想史学と本覚思想研究
黒田俊雄―マルクス主義史学におけるカミの発見

本書をななめ読みしながら痛感したのは、戦後の歴史学におけるマルクス主義の影響力の大きさです。これって一般の読書人にとって、肌感覚としては急速に分かりにくくなっているポイントではないでしょうか? ちなみに、「中村元―東方人文主義の日本思想史」は今年二月に急逝された西村玲(にしむら りょう)先生の遺稿です。中村元博士の墓碑にはパーリ経典『慈経』の一節が刻まれているそうです。

ブッダのことば 慈しみ

一切の生きとし生けるものは

幸福であれ 安穏であれ 安楽であれ

一切の生きとし生けるものは幸であれ

何ぴとも他人を欺いてはならない

たといどこにあっても

他人を軽んじてはならない

互いに他人に苦痛を与える

ことを望んではならない

この慈しみの心づかいを

しっかりと たもて

東方学院院長 中村 元 譯 中村洛子 書

原稿の注釈に記されたこの言葉に触れたとき、涙が出ました。

2016年は、私たちがもう西村玲さんの新しい研究成果を読むこと、聴くことができなくなった年として、これから何度も、悲しく思いだされるのではないかと思います。

近世仏教思想の独創 僧侶普寂の思想と実践

近世仏教思想の独創 僧侶普寂の思想と実践

 


「釈迦仏からゴータマ・ブッダへ ―釈迦信仰の思想史」(20150114)

……ちょっと湿っぽくなってしまいましたが、「ひじる仏教書大賞」来年もできたらいいなと思ってます。どうぞよろしく。年内はブログ更新をもう一回くらい、今度は手前味噌というか、自分が編集・制作にかかわった仏教の本について振り返ってみたいと思います。

 

~生きとし生けるものが幸せでありますように~