仏教を知るキーワード

仏教の基本的概念”saṅkhāra(行)”の多義性と解釈をめぐるプラユキ・ナラテボー師との論争――というか通仏教的な定説にもとづく誤謬の指摘

プラユキ・ナラテボー師というお坊さんとTwitterで仏教の基本的概念である”saṅkhāra(行)”の解釈をめぐって論争(とまでは言えるかわかりませんが論争的なやり取り)をしました。 十二因縁の一支としてsaṅkhārā行を捉える場合はそのような説明も可能と思い…

仏教を知るキーワード【21】ブッダの生涯 ~人類の燈火~(完)

ブッダ(釈迦牟尼仏陀)は古代インドに実在した人物である。仏教の開祖として、いまも何億人という人々から慕われている。連載の終わりに、ブッダの生涯を駆け足で紹介したい。 小国の王子に生まれて およそ二千六百年前。インド亜大陸の北、ヒマラヤ南麓に…

仏教を知るキーワード【20】ジャータカ ~ブッダの前生物語~

8つの特徴 ジャータカ(本生)はブッダの前生での波羅蜜行を記録したとされる説話文学集である。ジャータカというとすぐに「物語」が連想されるが、パーリ三蔵の場合は、経典の扱いをされているのは偈(ガーター)という詩の部分のみ。この詩を「注釈」する…

仏教を知るキーワード【19】密教 ~大衆の求めに応じた仏教的呪法儀礼~

ブッダは密教を否定したが、人々にとって仏教は神秘に満ちた教えだった ブッダ(釈尊)はこう述べた。「隠したほうが効果があり、あらわにすると効果がなくなるものが三つある。女性(の身体)と、バラモンたちの呪文、そして邪見だ。この三つは隠したほうが…

仏教を知るキーワード【18】六波羅蜜 ~大乗仏教に特有の修行体系~

大乗仏教では、ブッダになるための特別な能力完成をめざす「波羅蜜」が修行の中心に 六波羅蜜(ろくはらみつ)は大乗仏教の修行体系である。大乗仏教では菩薩道を歩んでブッダ(正等覚者)となることを目標としたため、ゴータマ・ブッダが示した修行法である…

仏教を知るキーワード【17】上座部と大乗 ~南伝と北伝、2つの大きな流れ~

上座部は初期に編纂されたパーリ仏典を伝承するが、大乗は大量に仏典を創作してきた 仏教にはいくつかの分類法があるが、もっとも一般的なのが上座部(じょうざぶ,テーラワーダ)と大乗(だいじょう,マハーヤーナ)という二分法である。伝統的に使われてい…

仏教を知るキーワード【16】菩薩 ~ブッダになるべく修行中の行者~

ブッダとなるための修行を積む存在で、大乗仏教では救済者としての面が強調された 菩薩(ぼさつ,菩提薩垂)とはブッダ(正等覚者)となるために波羅蜜(はらみつ)という特別な修行を積む生命である。初期の仏典で菩薩と呼ばれたのはブッダとなる前の釈尊だ…

仏教を知るキーワード【15】出家と在家 ~優婆塞・優婆夷と比丘・比丘尼~

出家者は戒律に基づく出家サンガに所属する。在家信徒は出家サンガを布施で支えながら、その指導を受けて個々人で仏道を実践する 仏教の出家とは、一義的には比丘(びく,男性出家者)と比丘尼(びくに,女性出家者)のことを言う。*1在家は優婆塞(うばそく…

仏教を知るキーワード【14】地獄と極楽 ~仏教が説くあの世の成り立ち~

地獄は最下層の転生場所で、極楽浄土は聖者が特別に転生する浄居天がルーツとも 地獄は六道(五道)輪廻の底辺に位置づけられる。極端な苦しみの世界で、しかも極めて寿命が長い。ブッダは「極端に不幸な、極端に不快な、極端に不適意な処だと、まさしく言え…

仏教を知るキーワード【13】仏教の宇宙観 ~生命世界と物理宇宙の緻密な分析~

有情世間(輪廻する生命の世界)と器世間(物理的な宇宙)の構造 「世間」は世界、宇宙を意味する仏教語である。 仏教の世間は【1】有情世間(生命の世界)と【2】器世間(物理宇宙)に分けられる。 輪廻(生存)からの解脱を説く仏教では【1】有情世間の分…

仏教を知るキーワード【12】輪廻 ~因縁によって生滅変化する心の流れ~

不滅の霊魂が死後も生存して生まれ変わるのではなく、瞬間ごとに心の流れが生滅する 輪廻(りんね)とは「因縁により生滅変化する心の流れ」である。 一切の現象は絶え間なく変化する。いまの現象から瞬く間に別の現象が生まれる。我々の心も激流のように変…

仏教を知るキーワード【11】業 ~善悪の結果をもたらす人間の行為~

未来に向けてどんな心の流れを作るかは、今の自分にかかっている 業(ごう)とは、「人間が身体・言語・こころでなした行為(身口意の三業)は、その行為の質により自らに善悪の結果をもたらす」という教えだ。ブッダは出家在家男女を問わず、世俗で幸福に生…

仏教を知るキーワード【10】空 ~すべては因縁によって作られた幻~

初期仏教では「無我」の同義語として扱われ、大乗仏教思想ではとくに重要視された 空(くう)は般若心経の「色即是空」という熟語とともに親しまれている仏教語だ。無常・苦・無我の項でも述べたように、初期仏教では、自己観察を通して五蘊や六処などを無常…

仏教を知るキーワード【09】慈悲 ~生命への慈しみこそが仏道の真髄~

慈悲喜捨の四無量心を育てて、あらゆる生命と平等・対等な心理的関係を築く 智慧と慈悲(じひ)こそ仏教の真髄と言われる。智慧の教えは輪廻からの脱出を主眼とし、慈悲の教えは「輪廻のなかで私たちはどう生きるべきか」という生命との関係論に重点が置かれ…

仏教を知るキーワード【08】修行 ~ブッダが示した具体的な仏道実践法~

さとりに至るための修行法は37項目に集約され、これを「三十七菩提分法」などと呼ぶ 仏教は「八万四千の法門」と呼ばれ、教えの範囲は膨大だが、具体的な実践法は37項目に集約される。総称して、三十七菩提分法、七科三十七道品などと呼ばれる。その項目とは…

仏教を知るキーワード【07】戒律 ~ブッダが定めた正しい生き方~

人格を育むために各自が心がけて守る戒と、僧団生活の規則である律の2種がある 戒律(かいりつ)とは「ブッダが定めた正しい生き方」の総称で、仏教で説かれる戒定慧の三学の第一である。戒律を保って生きることは、禅定(定学)と智慧(慧学)を進歩する基…

仏教を知るキーワード【06】無常・苦・無我 ~自己観察によって発見される真理~

3つの真理を体得すれば、あらゆる現象への執着がなくなり、さとりの境地に達する 無常と苦と無我は、「三相」あるいは「三法印」と言われ、存在の「ありのまま」を三つの側面から説いた教えとして知られている。しかし、無常と苦と無我はあくまで自己観察に…

仏教を知るキーワード【05】因果法則と縁起 ~ブッダが発見した存在の方程式~

無明が生じると苦も生じる。無明が滅すると苦も滅する。 仏教の「因果法則」とはブッダが発見した「存在の方程式」である。 「これがある時はこれがある。これがない時はこれもない。」「これが生じるとこれも生じる。これが滅するとこれも滅する」というシ…

仏教を知るキーワード【04】八正道 ~中道の具体的な実践方法~

8つの項目を実践することによって心のポテンシャルは増大し、ついには解脱に達する 八正道(はっしょうどう)はパーリ語から直訳すると「聖なる八支の道」となる。中道の具体的な実践法である。 1)正見:見解を完成に導く。客観的に事実を見て因果関係を理…

仏教を知るキーワード【03】中道 ~左右の中間ではなく、超越した道~

快楽によっても苦行によっても何も得られないと知ったブッダは、第三の道を説いた 中道とはブッダが菩提樹下で成道された後に、最初の説法(初転法輪)で説かれた教えである。 当時のインドには、盛大な動物供犠などを通して神々や祖霊の世界に働きかける現…

仏教を知るキーワード【02】四聖諦 ~仏教の根幹をなす4つの真理~

「生きることは苦」であるという真理を発見したブッダは、さとりへの道を示した 四聖諦(ししょうたい)は仏教の要諦を四項目で示した教説である。 1) 苦聖諦:「生きるとは何か?」と問い続けたブッダが辿り着いた最終的な答えは「生きるとは苦(ドゥッカ)…

仏教を知るキーワード【01】さとりと解脱 ~仏教徒がめざす修行の完成~

心が煩悩から解放された心解脱と煩悩が完全に断たれた慧解脱の2種類がある 「さとり」という言葉は仏教用語としてよく使われるが、いざ定義しようとすると曖昧な用語でもある。初期仏教では修行の完成は「涅槃(ねはん,ニッバーナ)」と呼ばれる。涅槃に達…