小谷野敦「天皇制批判の常識」面白いよ!
- 作者: 小谷野敦
- 出版社/メーカー: 洋泉社
- 発売日: 2010/02/06
- メディア: 新書
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「なぜ天皇制廃止論なのかと言えば、人は生まれによって差別されるべきではない、と考えているからである。」という明快な論理に貫かれた本。
この明快な論理によって、天皇をめぐる日本論壇の左右を問わぬグダグダぶり、不誠実ぶりが炙り出される。
私は小谷野氏とは「嫌いな知識人」の好み?が合うこともあって、たいへん面白く読んだ。ただ、章立てをもう少し細かく、例えば第一章と第三章はそれぞれ二分割した方がよかったと思う。
以下、内容をざっとたぐっていくと……。
国にとって都合がいいのは適度に左翼な人という事実。
天皇は君主であると同時に宗教でもある。
近代「天皇制」以前に「天皇制」はなかった。近世の日本における天皇の認知度は1パーセント程度に過ぎなかった(小林よしのりへの再反論)。
本書は小林よしのり『ゴー宣 天皇論』へのまとまった(まっとうな)批判にもなっている。だから併せて読んだ方がいいかもね。
日本神話が一般に知られるようになったのは明治以後。国学者が万葉仮名を解読するまでは、そもそも古事記なんか誰も「読めなかった」。
で、天皇が続いたのは、やっぱ偶然じゃないの?(著者の結論)
日本の文学・文化を愛する者でも、別に「天皇を愛する」必要はないだろ(著者は現皇太子の生き方に敬意を払っているけど)。
光明皇后は事実上、易姓革命を起こしていた。
日本人は世界の君主制の実態について知らなすぎるYO!
天皇制を認める人には、差別を批判する権利はない。
卑怯な左翼、劣化する保守は許せん。体制に都合がいい「適度に左翼」な枠からは一歩も踏み出さず、「ちょっと冒険派」気取って処世術にたけた宮台某とか中島某とかな!
天皇制擁護はナショナリストの条件ではない。
尊王家は「ロイヤリスト」と呼ぶのが正しい。等々。
「日本ほどアイデンティティのはっきりした国はない。千五百年の歴史と文化を持ち、…いったい何を好んで、天皇制などという、明治以来の歴史しかないものにアイデンティティやら大きな物語やらを保証してもらわなければならないのか。」p113
これには、激しく同感だ。
ちょっと、追伸。
天皇を「現人神」に仕立て上げたのは真宗系の転向仏教徒知識人だった(神道家にはそんな難しいこと出来なかったんだYO!)を明らかにしたのは、何と皇學院大學の新田均。
『「現人神」「国家神道」という幻想asin:4569626548』(2003年 PHP研究所)がその成果だが、近代仏教の研究者はのきなみスルーした。*1
著者は新田の同著を高く評価している。これは我が意を得たり。天皇の歴史は仏教込みでないと大部分わからんし、近代の「天皇制」も実はそうなのだ。
天皇と神道信仰を不可分と強弁しながら仏教を無視する論者のおかしさは、著者も指摘している。このあたり、小谷野敦はかなりセンスがよい。
実は、新田均の『「現人神」…』以降の著書は読んでない。右派の運動サイドにどっぷり漬かっているようだが。神道と真宗という、対極にあるかの如き宗教の知られざる共犯関係に着目したことはもっと評価されてしかるべきだと思うんだけど。
てなわけで、個人的な怨恨こみで込み入った記述もあるが、「天皇制批判の常識」がコンパクトに過不足なくまとめられている本書はオススメです!
- 作者: 小谷野敦
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- 作者: 小林よしのり
- 出版社/メーカー: 小学館
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「現人神」「国家神道」という幻想―近代日本を歪めた俗説を糺す。
- 作者: 新田均
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2003/02
- メディア: 単行本
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〜生きとし生けるものに悟りの光が現れますように〜