流行神236号特集 「崖の上のポニョ」におけるエランとフラン
浅羽通明氏の個人誌『流行神』230号-236号が届いた。竹熊健太郎氏や町山智浩氏の文章には時々「この人すごいな」と唸らされることがあるが、浅羽通明氏のそれには「この人、ほんとうにすごいな」と圧倒させられることがある。『流行神』236号特集「物語批評のABCを考える」(表面表記)「「崖の上のポニョ」におけるエランとフラン」(裏面表記)の「母たちは何を熱心に話し合ったのか―「崖の上のポニョ」再考」に、その「この人、ほんとうにすごいな」が出た。
はたして、宮崎駿監督の作劇が破綻しているのか。もしかして、作品に結実した物語の統合性を探る努力を諸論客が怠っているのを、あるいは試みはしたが見巧者ぶりを発揮するには先生方がどうにも鈍過ぎるのを、皆で破綻していると合唱して空気を作ってしまう手で、隠蔽しようとしているでなければいいが。
雑誌『サイゾー』2008年11月号asin:B001HBDP44の第2特集「宮崎駿の狙いは××だった!?傑作?凡作?大論争・論壇が見た『ポニョ』-宮台真司、東浩紀、切通理作、町山智浩、宇野常寛」に対して、浅羽氏は塚崎幹夫『名作の読解法asin:4562036206』の方法論(ただ何度も物語を精読し作家や作中人物と共に考えるだけの方法)を引き合いに出し、そんな「物語批評のABC」を踏まえずに、徒に新奇な学識をかざして批評家自らの特権化を図っているが如き「諸先生の読みのレベル」を具体的な論拠を挙げて曝しあげる。
A4三折両面6ページ中5ページにびっしり印字された文字数をしても、言及されるポイントは「宗介が浜辺で助けた人面魚形のポニョを入れたバケツに水道水を注ぐ描写」と「宗介の家庭描写」に絞られる。そして後者の論点を跳躍代として、浅羽氏のポニョ論の肝と謂うべき「ポニョの生命力と宗介の意志の到来とを皆で待っている」ことの読み解きが披露される。
「崖の上のポニョ」の舞台たる漁港は、自然と格闘する技術が生きている現場だ。しかし、科学技術の高度な発達と消費資本主義の爛熟の下、そうした機能的つながりが生む活力はずっと流行らなくなっていた。ゆえに漁師町はおとろえているのだ。宗介の父母は、船員と介護士という技術と手仕事の現場で、日々格闘しているし、5歳の息子宗介にも生活上、モールス信号ほか技術を身につける尊さと歓びを教えている。しかし、それがとうにトレンドでなくなったポスト高度成長期日本ゆえ、彼らの家庭もおとろえざるを得ないのだ。手ごたえとやりがいを実感できる技術ほど、不要となり空回りする時代の無力感で……。
そこにポニョが上陸する。
続きは著者との直接取引でお読みいただきたい。短い文章だが、この文章のためだけにも『流行神』を定期購読する価値はあるだろうと思う。購読方法は浅羽氏の著書に購読方法が記載してある。
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〜生きとし生けるものに悟りの光が現れますように〜