靖国問題の原点

靖国問題の原点

靖国問題の原点

「あの時、靖国は「奇妙な両棲動物」になることをみずから選択した― 賛成派・反対派の激しい対立に与しえず、でも戦死者の公的追悼は当然と思う人に。問題の「なぜ」を歴史・宗教・社会学から解明。」

あんまり暑いんでちゃんとレビューする気力もないけど、これは最近出た靖国がらみの出版物のなかでは出色の出来でしょう。「この問題に関心あるけど、何を読んでいいか分からない」「ただ信念を固めるためだけの読書はしたくない」という人はぜひ手にとってください。

三土修平さんの本は初めて読んだけど、すごく冴えてる人です。基本的に靖国国家護持には反対の立場ですが、靖国反対派の論理展開が穏健な良識を持った日本の庶民を心情的な靖国支持派に追いやってしまったことをも統計分析を駆使して素直に指摘しています。

また本書の後半、靖国問題の「原点」としてGHQと日本政府による戦後の国家神道改革がはらんでいた矛盾を明らかにしたくだりは、二項対立が続く靖国問題に、新しい視野を開く画期的な論考と言えるでしょう。

著者のスタンスは、しょせんは書生論にしか思えない高橋哲哉の『靖国問題 (ちくま新書)』にも、小林よしりんの悲壮な憂国節バリバリの『新ゴーマニズム宣言SPECIAL靖國論』にもイマイチ乗れない、穏健なふつうの日本人だと自認する人にも納得できるものです。っつーか本書を読んでこの問題の見取り図を頭に入れない限り、靖国奉賛派も反対派もお互いの「末法思想」に駆られて不毛な感情的対立を延々と続けることになると思います。いいかげん、そーゆーのやめましょう。暑いし。

戦後民主主義象徴となってしまった靖国神社が、神仏習合的な日本の信仰風土にソフトランディングしてゆく筋道まで展望した筆致は、インテリの不人情からも、保守オヤジの現状居直りとも一線を画した、慈しみのまなざしに満ちている。「きっとこの人は仏教徒じゃないかなぁ」と思ったら案の定、そうでした。東大寺で得度もされてます。

「私は仏教徒ではない」と言ってみることが誠実の証拠と思っているらしい、最近のインテリのダサいカッコつけとは大違い。律儀にあとがきで仏紀まで使ってる姿勢にも個人的に好感持てました。

〜生きとし生けるものが幸せでありますように〜