夏目房之介の「で?」

見慣れないブログからのお客さんが増えてるなぁと思ったら……

「大法輪」編集部より、仏教マンガについてのエッセイが大変反響があったので、また書いてほしいとの依頼。で、反響の例にあげられたのが以下のURL。
でも、前期の講義中なので、やるかどうか・・・・躊躇。

大法輪 2008年 11月号 [雑誌]

大法輪 2008年 11月号 [雑誌]

上記記事で、も彼岸寺などと並んで、当ひじる日々の

へのリンクが張られていた。夏目先生「仏教マンガの面白さ」好企画でした。続編もぜひお願いします!

マンガに人生を学んで何が悪い?

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原始仏教聖典資料による釈尊伝の研究

森章司先生(東洋大学元教授,中央学術研究所)のグループによる釈尊伝研究プロジェクト「原始仏教聖典資料による釈尊伝の研究」の膨大な成果が、オンラインで公開された。

 これは原始仏教聖典を主な資料として、後世の注釈書文献などを参照しながら、釈尊の生涯(仏伝)と釈尊教団の形成史を明らかにしようとする研究で、宗教法人立正佼成会の一機関である中央学術研究所の事業の一端(委託研究)として行われているものです。
 平成4年に始められ、その成果は「『中央学術研究所紀要』モノグラフ篇」として、現在までに13冊が刊行されており、今後も継続して行われますが、このたびこれを電子版として公開することになりました。ただし「資料集」の一部は未だ未完成で、さらに整備する必要がありますのでその公開を見合わせました。いずれはこれらも公開する予定です。

研究代表者 森 章司(2009.02.05)

1997年7月から10年以上にわたって刊行されてきた「中央学術研究所紀要」モノグラフ篇『原始仏教聖典資料による釈尊伝の研究』第1号から13号まで*1の主要部分が、PDFファイルでダウンロードできる。これは初期仏教を学ぶ全ての人々にとって、かけがえのない財産だ。これだけの資料が日本語で読むことができる喜びをかみ締めるとともに、森章司先生の学恩に少しでも報じるために、精進しなくてはと思う。

仏教比喩例話辞典

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戒律の世界

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原始仏教から阿毘達磨への仏教教理の研究

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仏教的ものの見方―仏教の原点を探る

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初期仏教教団の運営理念と実際

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〜生きとし生けるものに悟りの光が現れますように〜

*1:刷り部数が少ないため、一部は古書店で高値をつけていた。

「アラナ精舎日記」が面白い


アラナ精舎ご本尊のお釈迦さまと台座。台座はミャンマー製。仏像はスリランカ製。

ミャンマー巡錫を終えたコーサッラ西澤長老が、アラナ精舎(大阪府岸和田市)に戻られたとのこと。長老の不在で更新が止まっていた「アラナ精舎日記」も再開された。身内ぼめになってしまうのはナニだが、アラナ精舎日記は面白い。ミャンマーで10年間修行されたコーサッラ西澤長老ならではの切り口で、テーラワーダ仏教圏の文化について、ユーモアをまじえながら綴られているのがいい。仏教好きの方は、購読されることをおススメしたい。

オバマ就任演説の「仏教パッシング」について再び(追記あり)

昨日書いた、アメリカ下院の仏教徒議員(オバマ就任演説における「仏教スルー」を嘆く)に関して、けっこう反響をいただいた。……というより、id:antonianさんとid:Brittyさんの以下の記事のおかげでアクセスが伸びたようである。

両エントリへのブックマーク・コメントも、件のオバマ発言に関するさまざまな受け取り方を垣間見られて面白い。

他のブロガーの記事でも昨日の記事が言及されている。

こういう扱いになっているのは、アメリカで仏教徒の数が少ないというのもあるけど、アメリカ人にとって仏教はここで挙げられている一神教や多神教の宗教とは違い、哲学に近いものとして受けとめられているからではないだろうか。

実際、ドーキンスは神は妄想である―宗教との決別の中でそう書いている(だから仏教は彼の攻撃の対象にはなっていない)。

そもそも初期の仏教では

  • (人間社会に介入する)神など存在しない
  • ものごとには必ず(神以外の)原因があり、それは人間の行動により変えることができる

と教えていたはずなので、その点で仏教は無神論の一種とみなすことができる。

つまり、このオバマの演説では仏教徒は"non-believers"の中に含まれていると考えられる。ちなみにこれを「無信仰者」と訳すのは不適切で、これは「神の存在を信じない人達」とすべきだろう。

神は妄想である―宗教との決別

神は妄想である―宗教との決別

スピーチの内容を改めて見てみると、スルーじゃなくて、「まとめ」られたと見なすべきだと思ったので。

non-believers に仏教徒を含めたのではないかというのが私の見方。

なるほど、とちょっと納得しかける。もちろん、厳密には仏教で否定しているのは因縁説に反する創造神,絶対神である。生命の次元としての天・梵天は初期経典から認めている。ただ、人が「神を」礼拝するのではなく、「神が」目覚めた人(ブッダ)を礼拝するのだ。

死後はどうなるの?

死後はどうなるの?

まぁ、それは細かい話だとしても、やはり腑に落ちないところが残る。


私が書いた昨日のエントリのタイトルは、「アメリカ下院の仏教徒議員」である。オバマ云々は副題に留めた。

繰り返しになるが、ハワイ選出メイジー・ヒロノ議員(浄土真宗)とジョージア州選出ハンク・ジョンソン議員(創価学会インターナショナル)は、ともに2006年末の連邦議会選挙で初当選した「民主党」の下院議員だ。二人の当選は、同じ選挙で当選したミネソタ州選出ケイス・エリソン(Keith Ellison)が初のイスラム教徒議員となったことと並んで、アメリカ社会の宗教的多元性が進んだことの象徴として報じられた。


その報道は、当時、上院議員であったオバマ大統領も当然、知っていただろう。であるならばやはり、MuslimBuddhistというキーワードは、オバマ氏が就任演説で訴えた「我々の多彩な出自は、強みであって弱みではない」というメッセージのなかに、並んで用いられるべきだったのではないかと思うのだ。


うかつなことに昨日の記事を書いてから気づいたのだが、オバマ就任演説での「仏教パッシング」については、1月26日付けで産経新聞のHPに以下のコラムが掲載されていた。

佐藤優氏のラジオ番組での発言に触れたくだり。

 その佐藤氏が先日、ラジオ(ニッポン放送「上柳昌彦のお早うGoodDay!」)で、オバマ大統領の就任演説では、次の一節に注意すべきだと語っていた。

 「われわれはキリスト教徒、イスラム教徒、ユダヤ教徒ヒンズー教徒、そして無神論者の国だ」

 なんの変哲もない個所だが、「ヒンズー教徒」をさりげなく盛り込み、インドの顔を立てたというのだ。アフガニスタン作戦を成功させるには、インドの協力が不可欠だからで、「オバマは本気だ」と佐藤氏は言う。

 佐藤流をまねれば、このくだりで注目すべき点がもうひとつある。「仏教徒」がまったく無視されていることだ。

 まさか、聡明(そうめい)な大統領が、ヒンズー教と仏教は同じと認識しているわけではあるまい。それだけ米国では、仏教が控えめな存在なのだろうが、通夜や葬式で念仏を唱える程度の「仏教徒」の私でさえイヤな感じがしたほどだから、米国で布教に力を入れている仏教関係者のショックはいかばかりだろう(世俗のことだから気にしないのかもしれないが)。

 ここから先は、筆者の邪推であるが、米国内の仏教徒に目が向いていないように、仏教徒の多い日本にも大統領はあまり関心がないのではないか。

 大統領選中のスピーチでも、丈夫な枕になりそうな分厚い著書でも日本については、ほとんど触れていない。

拙著『大アジア思想活劇』でも紹介したが、仏教はアメリカ合衆国において、実に19世紀末から100年以上の伝道布教の歴史がある。なかでも日本仏教のアメリカ布教(当初は日系移民を主な対象として行われた)は、質量ともに群を抜いていた。

大アジア思想活劇―仏教が結んだ、もうひとつの近代史

大アジア思想活劇―仏教が結んだ、もうひとつの近代史

アメリカ連邦議会の下院に、二人の仏教徒議員が誕生したことも、「大東亜戦争」期の中断をはさんだ、長年にわたる日本仏教徒の地道な布教伝道の賜物と言えるのだ。乾氏は「邪推」をあれこれする前に、そういう歴史を踏まえ、ファクトに基づいてオバマ就任演説の瑕疵を論じて欲しかったと思う。

また、拙ブログの記事の以前にも、以下のページでオバマ就任演説と仏教スルーについて言及されていた。

あと、アメリカの宗教系サイトでも多少は話題になっているようだ。

オバマ就任演説と仏教スルーの件、もうすぐヒラリーさんが来日するみたいなので、誰か質問してみてくれないかしら。


追記:この問題については、アメリカ現地で取材を続けている菅谷洋司氏写真の広場−グローバルフォトエクスチェンジ情報室の記事にも注目したい。

やはり、単に忘れたとかアジア軽視とかいうよりは、中国を意識したチベット問題への配慮の線が濃いのではないか、という推測になっている。続報まだ〜?

オバマ自身がまだ演説そのものについて言及していないので、少年探偵団のように数少ない事実から推理していくしかない。
メインストリームメディアが早く、記者会見で正してほしいと思う。

もっともだ。まさかヒロノ議員とジョンソン議員が念仏と法華の宗論はじめて収集がつかなくなった、なんてことはないだろうしね(笑)。

※あらためて詳しく検索してみたら「仏教(サタン)」呼ばわりしているゆんゆんクリスチャンのページなど引っかかって、どっと疲れた……。そういう類と一緒にされるくらいなら、無信仰の人たち(non-believers)でいいですよ、私も、はい。

あ、Yahoo!知恵袋にも……


追記:長くなりすぎたので、エントリを分けた。こちらもどうぞ。

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オバマ大統領の妹は仏教徒?

前のエントリで紹介したアメリカの宗教系サイトbeliefnetでの、オバマ「仏教パッシング」に関する記事。コメント欄が面白い。

21世紀 仏教への旅 日本・アメリカ編

21世紀 仏教への旅 日本・アメリカ編

No-ism
January 29, 2009 8:11 PM
Tumarion,

You said: "The Hindu view of the Buddha as an incarnation of Vishnu is at best a back-handed compliment. Vishnu is said to have incarnated as Gautama Buddha to spread false doctrine in order to confound demons."

Hindus don't have a concept of false doctrine. There are multiple paths to the truth. The Vaishnavas included Buddha as one among their 10 avatars, because he is genuinely believed to be a great soul. The Buddha's teachings are in perfect harmony with most Hindu traditions.

You are right that Obama's sister consider's herself Buddhist and so Obama is very aware of Buddhist practices to know that calling the Buddha's teachings a religion is a misnomer. For that matter, calling the Hindu traditions a religion is also a misnomer, but perhaps he included it as a gesture towards some of his Hindu fund-raisers!

要旨は以下のような感じだろうか?

あなた、「ヒンドゥー教徒のブッダ観は“ヴィシュヌの化身”としての意地悪な讃辞でしかない。ヴィシュヌは悪霊(無神論者)を混乱させる目的で虚偽の教義を広げるためにゴータマ・ブッダとして受肉したと謂われている。」とか言っていますね。

ヒンドゥー教には、虚偽の教義なんてゆー概念はありまっせん。真理に至るには多様な道があるんです。 (ヒンドゥー教徒の間で)ブッダが大偉人であるとマジに信じられているので、ヴィシュヌ派では10のヴュシュヌ神の化身の一人に含めているんです。 ブッダの教えはヒンドゥー教の伝統とほとんど完璧に調和しているんです。

そうです、オバマの妹は自分を仏教徒と見なしていますし、オバマも仏教の教義からすると「ブッダの教え」を(排他的な教義を持つ)「宗教」と呼ぶのは相応しくないと、よく知っているんです。さらに言うと、ヒンドゥー教の伝統を「宗教」と呼ぶのも間違ってますけど、恐らくいくつかのヒンドゥー教徒(の支援者)向け資金集めパーティをにらんだ宣伝として入れたんでしょうYO!

ヒンドゥー教と仏教―比較宗教の視点から

ヒンドゥー教と仏教―比較宗教の視点から

まぁ、典型的なヒンドゥー教徒から見た仏教観(それはヒンドゥー化した日本大乗仏教徒の仏教観とも親和性が高いんだが)だ。こーゆー何でも一緒にするヒンドゥー脳に取り込まれて、仏教はインドで溶けちゃったんだよな。しかし、オバマ氏の妹が仏教徒というのは興味深い話だ。

あ、スリランカの新聞(The Sundaytimes Onlene)にオバマ氏の妹、Maya Soetoro-Ngさんのインタビュー記事(NYTからの配信記事)が出てる。彼女はオバマ氏より9歳年下で、父親が違う(インドネシア人)。

マイ・ドリーム―バラク・オバマ自伝

マイ・ドリーム―バラク・オバマ自伝

Maya Soetoro-Ngさんによれば、二人の母親は、atheist(無神論者)と言うよりはむしろ、人類の精神的伝統をひとしく尊重する立場を貫くagnostic(不可知論者)であったという。二人はコーランの詠唱が聞こえてくる環境のなかで、文化人類学の博士号を持つ母親から、聖書・仏教経典・道徳経(老子)などの聖典を与えられて育ったのである。

Maya Soetoro-Ngさんは、自身の信仰について訊かれて曰く、

What religion are you?


Philosophically, I would say that I am Buddhist.

あなたの宗教は何ですか?


哲学的に、「私は仏教徒です」と言えるでしょう。

こういう答え方って、non-believersとしての仏教徒、とゆーニュアンスに近いのだろうか?


オバマ兄妹の母アン・ダナムについては、以下のブログ記事に詳しい。

またまた追記するが、東京財団現代アメリカ研究プロジェクトのニュースレター

で、オバマ就任演説における「仏教パッシング」の文脈について詳細な解説が載っている。

オバマのアメリカ―大統領選挙と超大国のゆくえ (幻冬舎新書)

オバマのアメリカ―大統領選挙と超大国のゆくえ (幻冬舎新書)

【オバマ演説の隠れた凄さ―新たな宗教文化の意識】
さて、就任演説の隠れた注目点はオバマのアメリカの多様性とリンクさせた新しい宗教観だった。他の注目ポイントの間に隠れて、あまり大きく話題とはならなかったが以下のくだりの意義は大きい。

「我々の継ぎ接ぎ細工の遺産は、強さであり弱さではない。我々は、キリスト教徒やイスラム教徒、ユダヤ教徒ヒンズー教徒、そして、そうした神を信じない人による国家だ。我々は、あらゆる言語や文化で形作られ、地球の各地から集まってきている。For we know that our patchwork heritage is a strength, not a weakness. We are a nation of Christians and Muslims, Jews and Hindus - and non-believers. We are shaped by every language and culture, drawn from every end of this Earth」

USA TODAYのキャシー・リン・グロスマンが指摘しているように(1/20/2009)、アメリカ大統領が就任演説のような公共性の高い場で、non-believersに明示的に言及したのは、初めてのことだ。ピューリタンが建国したキリスト教中心の伝統を持つアメリカでは「市民宗教」という概念で、聖書による宣誓も神への言及も自然なものとして受け止められてきた。しかし、信心深い人々とは別に存在する世俗性の高い人々は、大統領の公的な発言の次元内では、存在するが存在していないような存在、として扱われてきたことも事実だった。

オバマのnon-believersへの言及は、世俗性も含めた上でのアメリカの宗教観の多様性を「公」に認める発言である。アフリカ系には信心深い人たちが多いこともあってか、報道ベースでは広まらなかったのだが、西海岸やマンハッタン、シカゴなどの世俗派の政治関係者の知人からの筆者への「反応」は早かった。「世俗派を認めてくれた。すべてのアメリカ人がボーンアゲイン福音派ではない。しかも就任演説で語った。この人は本当にすごい大統領だ。涙が出た。また歴史を作った」という好反応ばかりだった。
もちろん、これに付随して各宗教から「どうしてうちの宗教を入れてくれなかったのか」という疑問も当然あるだろう。仏教が入っていないことへの指摘もある。しかし、これについては二つの点を考慮すべきだろう。一つは、これは宗教人口統計学に基づく演説ではないことである。必ずしも、アメリカの宗教別人口比率に沿って均等に発言することは目的ではない。よりシンボリックなメッセージとしての意義なり力点がある。

見えないアメリカ (講談社現代新書)

見えないアメリカ (講談社現代新書)

【「神を信じない人も」―多様性のアメリカの強さ】
第二に、non-believersをどう理解するかだ。前出シンクタンク研究員は「英語でこの文脈でいうnon-believersというのは、ユダヤ、キリスト、イスラム的な<ゴッド>を信仰しない人という意味であり、何にも信仰をまったく持たない無宗教者という意味ではない。不可知論者でもなければ、神学としての無神論者とも少し違う」と語るが、これは筆者も同感だ。従って(ユダヤ・キリスト的な)「神を信じない人」という訳が、意味的には妥当だと考える。しかし、読者にわかりやすいように「無神論者」と訳すことも、報道においては決して誤訳ではないだろう。ただ、「無宗教者」とすれば意味的には誤訳の範囲に入ってくるかもしれない。仏教徒は、ある意味では「神を信じない人」に入るからだ。「キリスト教的な神」を信仰しない宗教信仰者だ。

このように、本問題で気をつけておきたいのは、狭い意味での「神」を信じることを「宗教行為」だと分類するとすれば、仏教をそうした狭い意味での「宗教」と捉えない見方もアメリカにはあり、そのために無意識のうちに些細な誤解が相互に生まれることだ。仏教が入ってないことが「軽視」ではないことを理解するには、二段構えの解釈が求められよう。実際「ニューエイジ」の延長として、キリスト教的世界観とは違う生き様を「哲学」として求め、その一環として仏教に真摯に興味を持つアメリカ人は少なくなく(ヨガやベジタリアンのようなものに興味を持つことも広い意味では同じ系譜にある)、日本での葬儀から何から習慣に根付く仏教観とは「入り口」で異なる部分もある。

仏教が明示されなかったことの問題提起は大いに共有できるものの、キリスト教社会としての建前があるアメリカで、オバマが「神を信じない人(別の何かの信仰、哲学、無信仰を実践している人)」としてのnon-believersに、就任演説という最も公式の場で明示的に言及したことはきわめて画期的であり、筆者はむしろここに注目することで、オバマ演説を大いに評価したい。アメリカの政治と宗教において興味深い、そしてオバマのような多様性そのものを体現する大統領にこそ可能だった一里塚といえる。

現代アメリカ選挙の集票過程 アウトリーチ戦略と政治意識の変容

現代アメリカ選挙の集票過程 アウトリーチ戦略と政治意識の変容

太字は引用者。なるほど、かなり納得した。やはり専門家は大したものだ。
渡辺将人氏の本、読んでみることにする。

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アメリカ下院の仏教徒議員(オバマ就任演説における「仏教スルー」を嘆く)

辛口の政治評論家でさえ感嘆した。オバマ大統領が就任式で見せた、「宗教と政治」の料理の仕方はあまりにも鮮やかだった。

という書き出しで始まる石紀美子氏の記事、オバマの見事な宗教対策  JBpress(日本ビジネスプレス)が面白い。記事のポイントは、

 1月18日の記念イベントから20日の大統領就任式まで、以下の3人の宗教家が公式に祈りを捧げた。

リック・ウォーレン牧師(キリスト教福音派
ジーン・ロビンソン主教(米国聖公会
ジョセフ・ローリー牧師(統一メソジスト教会)

 非常に乱暴なくくり方をすると「極右」と「ゲイ」と「黒人」の宗教家が祈祷に選ばれたことになる。特にウォーレン牧師とロビンソン主教の人選は賛否両論で、大きな論争を巻き起こした。

この人選の妙についての解説にあるのだが、3ページ目において、オバマが就任式演説で仕掛けたサプライズ(アメリカ人にとっては)が明かされる。

 そして極めつけは、オバマ大統領自身の就任演説だった。彼は「この国は、クリスチャンとイスラム教徒、ユダヤ教徒ヒンズー教徒、そして無信仰の人たちで成り立っています」と述べた。

 これは米国人にとって、画期的な一文だった。これまで米国のリーダーが無信仰の人たちの存在を公に認めたことはなかった。無信仰の人たちは、無政府主義者や共産主義者と同様、危険で唾棄すべき存在とされてきた。この一文は、いかなる宗教も持たず、信じず、そのため社会から阻害されてきた人々から、賞賛と喝采の嵐を浴びることになった。

この演説、初めて聞いたときにも感じたのだが、やはりどうしてもモヤモヤした気持ちが残る。

「この国は、クリスチャンとイスラム教徒、ユダヤ教徒ヒンズー教徒、そして無信仰の人たちで成り立っています」

え?それだけ?


仏教徒は?


どうして、仏教徒だけスルーなの?


仏教なんか、アメリカでは取るに足らない存在だから?

21世紀に入り、アメリカ合衆国の仏教徒は、全人口(約2億8千万人)の2%近く(400-500万人)であると推定され、アメリカ社会の中に確実に根をおろしはじたといわれている。*1

というのに?

アメリカ連邦議会の下院には、現在、二人の仏教徒議員がいる。


メイジー・ヒロノ(Mazie Keiko Hirono)ハワイ選出。


ハンク・ジョンソン(Henry "Hank" Johnson, Jr. )ジョージア州選出。

Johnson was elected to the U.S. House in the November 7, 2006 general election. Johnson is―along with Mazie Hirono of Hawaii, also elected to Congress in 2006―one of the first two Buddhists in American history to serve in the United States Congress.

ともに2006年末の連邦議会選挙で初当選。アメリカ連邦議会史上初の、仏教徒議員となったのである。ヒロノ議員は福島出身で母親とともにハワイに移住。アメリカに帰化後も浄土真宗の信仰を保ち続けた。*2ジョンソン議員はSGI創価学会インターナショナルの会員である。

彼らはどんな思いで、オバマ大統領の演説を聞いただろうか……。


オバマさん、二人とも、民主党選出ですよ!仲間の宗旨くらい覚えといてくださいよ! 彼の寛容な宗教多元主義的な思想のルーツは仏教徒の多いハワイのはずなのに、無視するなんてひどいと思うぞ。


この時の連邦議会選挙では、初のイスラム教徒議員が誕生したことが日本でも話題になったが、同時に仏教徒も議員になったのである。しかも二人も!しかも二人とも日本大乗仏教の信徒!にも関わらず、この事実はほとんど報道されなかった。話題にされることもなかった。


日系人の多いハワイとはいえ、キリスト教社会(教会社会)のアメリカで、先祖から受け継いだ仏教信仰を捨てることなく、国会議員にまでのぼりつめたヒロノ議員。そして自ら日蓮仏教徒として生きる道を選び取り、菩薩道にまい進して多くの人々の信頼をかちとったジョンソン議員。


二人のサクセスストーリーは、日本仏教のアメリカ東漸の物語として、宗旨宗派を超えて、日本人全体で随喜をもって受け止めるべき慶事だったのではないか。


創価学会という特定団体の宣伝になってはまずいという余計な配慮のためか、単なるマスコミの宗教オンチのせいか、この快挙がG8唯一の「仏教国」日本(二人の奉じる宗派を生んだ国)で無視されたことが、オバマ就任演説時における「仏教パッシング」に繋がってしまったように思えてならない。


まことに残念だが、いまからでもこの事実を知る人が増えて欲しいと願う。

以下、参考サイト。

大アジア思想活劇―仏教が結んだ、もうひとつの近代史

大アジア思想活劇―仏教が結んだ、もうひとつの近代史

拙著『大アジア思想活劇 仏教が結んだもうひとつの仏教史』
19世紀末から二十世紀にかけてハワイ王家出身のメアリー・フォスター夫人は、アナガーリカ・ダルマパーラ居士による仏教の世界宣教をバックアップし、日系人の仏教寺院建立にも支援を惜しまなかった。オバマ大統領就任で大きな転機を迎えつつある環太平洋社会の近代史を、「仏教復興」という視点で捉えなおした歴史活劇。>>書評など詳細情報

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*1:[http://buddhism-orc.ryukoku.ac.jp/ja/annual_report_ja/annual_report_2002_220-228_ja.html:title=那須英勝「アメリカにおける仏教・浄土真宗の魅力」(CHSR)]

*2:She considers herself a non-practicing Jodo Shinshu Buddhist,っつー位のものだが……

唯識三十頌を写す女

一昨日のエントリに絡んでアビダルマや唯識系の仏典をつらつら調べていたら楽しくてたまらん。これはキリがないので、修行しない口実には最高かもしれない。

昨年7月末のブログによれば、宇多田ヒカルが『唯識三十頌』を写経しているという。

HEART STATION

HEART STATION

「7.28(Mon)17:52 手のひらを太陽に」で本人がそう語っている。

煩悩謂貪瞋 癡慢疑悪見
随煩悩謂忿 恨覆悩嫉慳

誑諂与害 無慚及無愧
掉挙与沈 不信併懈怠

放逸及失念 散亂不正知
不定謂悔眠 尋伺二各二

などと写しているのだね(驕は「りっしんべん+喬」、昏は「りっしんべん+昏」が正字)。

三島由紀夫豊饒の海』四部作から入ったそうだ。小室直樹センセイも『日本人のための宗教原論』で、三島由紀夫の同著を仏教入門として推奨していたっけね。僕は同じテーマの???楳図かずおの『イアラ』を読んだから、別にもういいかなと思って未読です。

『唯識三十頌』を読む (TU選書)

『唯識三十頌』を読む (TU選書)

唯識は面白いけど堂々巡り。

天人五衰―豊饒の海・第四巻 (新潮文庫)

天人五衰―豊饒の海・第四巻 (新潮文庫)

五劫の擦り切れ。

日本人のための宗教原論―あなたを宗教はどう助けてくれるのか

日本人のための宗教原論―あなたを宗教はどう助けてくれるのか

小室直樹の名著。

[豪華愛蔵版] 楳図かずお・イアラ

[豪華愛蔵版] 楳図かずお・イアラ

イアラ!楳図かずおの超時空ロマン。読後感最高。姫愛心!(号泣)

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