輿論と世論
往復の新幹線で読んだ本。11月4日 読売新聞で拙著『大アジア思想活劇』を書評してくださった佐藤卓己氏の新刊。
- 作者: 佐藤卓己
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/09
- メディア: 単行本
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「世論に従って政治をすると間違う場合もある」(小泉純一郎)
......この世論はセロンか、ヨロンか?
《公的意見=輿論》と《世間の空気=世論》、
両者を改めて弁別し、戦後を検証しよう。
終戦記念日、安保闘争、東京オリンピック、全共闘、
角栄と日中関係、天皇制、小泉劇場など
エポックとなる出来事の報道と世論調査を分析し、
為政者とメディアの世論操作、さらに「輿論の世論化」がもたらす
日本の言説と政治のゆがみを喝破する。
気鋭のメディア学者による、スリリングな戦後批評。
とっつきにくいが尻上がりに面白く。分り易い本ではないが、著者のこれまでの研究のダイジェスト版としても読める構成になっていて、ありがたかった。八月十五日の終戦記念日は、1939年からラジオ中継されていた英霊供養の盂蘭盆会法要になかば便乗した形で「作られた記念日」だったという。坂本慎一『ラジオの戦争責任asin:4569697755』を読んだばかりだったこともあり、このくだりが最も印象に残った。あと、第九章「戦後政治のホンネとタテマエ」で田中角栄政治について触れた以下の一節にもうならされた。
土地投機、狂乱物価を招いたとされる「ばらまき行政」も地域格差是正や弱者救済の再分配機能を果たしていたし、それが「一億総中流」福祉国家を幻視させたのだと言えなくもない。いずれにせよ、田中角栄を直視できなくなった日本国民は、田中政治の遺産――内政における日本列島改造、外交における日中国交回復――と冷静に向き合うことが難しくなったのではあるまいか。裸一貫から豊かな生活を目指した戦後日本人の影が田中角栄であれば、高度経済成長を達成した日本社会が抑圧した陰を、私たちはいま現在急成長を続ける中国社会に見ているのではないだろうか。近年の日本国内における対中イメージの悪化、いわゆる嫌中感情の増大は、自我の心理学として検討した方がよさそうである。
(p238-239)
この後ズバリ、「日本社会の影(シャドー)」としての田中=中国 という小見出しも出てくる。これは10月26日の日記で触れた『創価学会の研究』で論じられていた「創価学会を嫌悪する日本社会とは何か?」という問題設定とも響きあうものがあるように思えた。
- 作者: 玉野和志
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/10/17
- メディア: 新書
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※12月9日早朝、大幅に加筆してエントリーを独立させた。
〜生きとし生けるものに悟りの光が現れますように〜