文庫の辞典事典

一日中雪だし寺ねこへの給餌を除いて引きこもって過ごした。

辞書事典にはとにかくデカイ重いイメージがあるが、文庫本でもけっこう出ている。マメ知識本程度のものでも堂々と「辞書」を名乗っている例もあるが、何千円もする辞書に負けない使い勝手のものもある。たまたまウチの本棚にあったものを三冊紹介したい。

言海 (ちくま学芸文庫)

言海 (ちくま学芸文庫)

大槻文彦によって明治22年(1889年)から刊行された日本初の近代的「国語辞典」をそのまま1340ページの文庫版に縮刷した本。その紙一重な感じに意気を感じて買ったっけ。(2200円+税)巻末に収められた「ことばのうみのおくがき」はほぼ独力で十七年かけて『言海』を完成させた大槻がその半生を綴った涙なしには読めない名文。文語体だが、苦労してでも読むべし。文部省には見放され、娘や妻に先立たれ、校正紙を涙で濡らしながら刊行にこぎつけた大槻のしつこさには、出版にかかわるものとして姿勢を正さずにおれない。ちなみに辞書は当然あいうえお順の並びだが、「いろは」順の索引も付してある。実際、明治時代の辞書には、「あいうえお」順ではなく、「いろは」順のものも少なくないのだ。「いろはにほへと……」という仏教道歌でことのはの世界に分け入った古きよき?時代の名残である。「あいうえお」順といっても旧仮名遣い並びだし、「ん」が「む」の後に来ていたり、見出しにも変体仮名が使われていたりして、重症の活字好き以外には読みにくい本だが(ちくま学芸文庫なんだから文句ゆうな!)語彙の面でも、現代とはずいぶん違っていて面白い。たとえば仏教語でも、

志″やうど−志んー志ゆう(名)浄土新宗 一向宗(イツカウシユウ)ニ同ジ。 四八八(630)

なんて表記がしてある。もちろん、現在の「浄土真宗」のことである。当時はまだ浄土宗の分派扱いで「浄土新宗」という呼び方がされていたのだ。ただし、他に「真宗」の見出しもある。

あと巻末の採収語類別表(1254)で、外来語が「唐音語、梵語、韓語、琉球語、蝦夷語……)となっているのも面白い。そうやって「へーっ!」とゆー面白み(最近は「アハ」とか言うのか?)を各自の興味で探せるところも楽しい人には楽しい本だ。

江戸ことば・東京ことば辞典 (講談社学術文庫)

江戸ことば・東京ことば辞典 (講談社学術文庫)

『江戸ことば東京ことば辞典』と銘打ってあるが、上方語と共通するものも載せてある。新聞連載をまとめた本なので気軽に読める。語源うんちくが面白く、大槻『言海』もよく引き合いに出されている。

知って役立つキリスト教大研究 (新潮OH!文庫)

知って役立つキリスト教大研究 (新潮OH!文庫)

『知って役立つ キリスト教大研究』まぁ、「知ってどうする?」とゆー気もしないではないが、「第2章比べてみよう教派いろいろ」だけでも読む価値はあるだろう。東方正教会、ローマ・カトリック、ルター派聖公会、改革派/長老派、会衆派/組合派、パブテスト、メソジスト、ペンテコステ派メノナイト派、クエーカー、ユニテリアン・ユニヴァーサリスト、救世軍福音派&ファンダメンダリストと、これだけフラットな語り口で網羅的にキリスト教の教派の概要をまとめたテキストは他になかなかない。イラストもかわいらしいし、「人の傾向」「外から見るとこんな側面も」「翻訳者や作家へのアドバイス」など、切り口もいい。中東系の東方教会を除けばほとんどの教派が日本でも活動しているわけで(いわゆる三大異端が最大勢力だけど)、ホントに日本は宗教博物館のような国だと思う。仏教版もこんな感じで作ったら面白いんじゃないかな。でも「人の傾向」とか書いたら、異論百出して収拾つかなくなりそう。「お坊さんの傾向」くらいにしとくべきか。

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