2018年の仏教書お仕事回顧:スマナサーラ長老の単行本(原始書籍&電子書籍)

さて、今年もあと二日というタイミングで一年のお仕事を振り返ってみたいと思います。スマナサーラ長老の言葉を通してお釈迦さまの教えを世に広めることが自分の大使命なので、当然その成果物がメインになります。

日本テーラワーダ仏教協会の月刊機関誌『パティパダー』の編集や施本制作はとりあえずのけました。あと、サンガさんの既刊電書化については、細かい校正以外はほぼ版元さんにお任せしているので割愛します。

ふりかえってみると、昨年に引き続きけっこう重要な本を上梓できたなぁ、という満足感のある一年でした。

原始書籍(紙の書籍)編

『観察――「生きる」という謎を解く鍵』ドキュメンタリー映画監督として『選挙』『精神』『ザ・ビッグハウス』『港町』などなどの「観察映画」作品を発表している想田和弘さん(最近は夫婦別姓を求める裁判でも話題になりましたね)と長老の対談集。長老の代表作『怒らないこと』に出会って人生が変わったという想田監督ですが、2016年に二日間行われた最初の対談収録(第一部に該当)ののち拠点のニューヨークでヴィパッサナー瞑想(マインドフルネス瞑想)のセッションを受けるんですね。そこで構成が固まりかけていた本の企画を仕切り直して、翌2017年に瞑想をテーマにした対談と瞑想個人指導の機会を設定したのです(第二部と付録に該当)。結果として、想田監督ご自身の「観察」の深まりを読者として追体験できるユニークな構成の本になりました。数多いスマナサーラ長老の対談本のなかでも、個人的に気にいっている作品です。

慈悲が世界を変える。 (サンガジャパンVol.30)

慈悲が世界を変える。 (サンガジャパンVol.30)

 

ちなみに、本書の出版記念イベント(長老と想田監督の公開対談)の様子は『慈悲が世界を変える――サンガジャパン30号』に収録されています。「ミッシングピースを探して――生命が「慈悲の本質」に気づく瞬間とは?」これまた素晴らしい内容なので、ぜひお読みいただきたいです。

慈悲の瞑想〔フルバージョン〕――人生を開花させる慈しみ

慈悲の瞑想〔フルバージョン〕――人生を開花させる慈しみ

 

『慈悲の瞑想〔フルバージョン〕――人生を開花させる慈しみ』は長老が提唱されているじっくり長文の「慈悲の瞑想フルバージョン」を段落ごとに解説したガイドブックです。慈悲の瞑想では、「わたし」「人々」「生命」といった概念(施設)とひとまず認めたうえで、それらの対象への親愛の気持ちを拡げていきます。心を拡げるというと大それた感じもしますが、具体的な言葉を念じるところから入るので、ヴィパッサナーはちょっと合わない、という方でもとりくみやすい瞑想(修習)でしょう。長く読み継がれ、実践されていってほしいと思います。

スッタニパータ 第五章「彼岸道品」

スッタニパータ 第五章「彼岸道品」

 

『スッタニパータ 第五章「彼岸道品」』4巻シリーズの第1巻です。ゴータミー精舎でのパーリ経典解説をもとにした作品。サンガジャパン連載が3篇、書下ろしが1篇です。以下、Twitterで書いたエモい文章を再録します。

スマナサーラ長老の新刊『スッタニパータ 第五章「彼岸道品」』第一巻がついに刊行されました。中村元博士の邦訳『ブッダのことば スッタニパータ』(岩波文庫)を通して、前世紀から「これこそ原始仏典」という評価が日本で定着したスッタニパータ(経集)。

文献学的に再古層とされる後半箇所のなかでも、ブッダと十六人の仙人たちとの問答で名高い第五章「彼岸道品(Pārāyanavagga)」。仏教のエッセンス中のエッセンスたるテキストをスマナサーラ長老が満を持して紐解くという、画期的シリーズの第一巻です。広く読まれているからこそ、皆「知ってるつもり」になっていたスッタニパータの凄みを引き出す長老の解説力は腰が抜けるほどの切れ味です。

こんな仕事は、かつてのブッダゴーサ長老を含め、他のどんな学識者にも為し得なかったでしょう。しかも、スッタニパータを「難解な教え」として我々の手から取り上げるのではなく、むしろ我々がリアルな「苦」を克服する導きとして、実践的に使いこなせるよう方便を尽くしてくださっているのです。真理の教えとは如何に偉大で親切なことか!

ゴータミー精舎での講義のスピード感を生かしながら、初期仏教のエキスパートたる著者の緻密な加筆を経た本書は、二十一世紀の日本を代表する仏典註釈になると確信します。思い起こすと二〇〇三年、私が長老の著作編集にたずさわった最初は『慈経(Mettasutta)』でした。慈経もまたスッタニパータ所収ですが、以来ずっと長老の本づくりをお手伝いしてきて、彼岸道品の解説書を出せたのは編集者冥利に尽きると思います。

自分はこの仕事をするために生まれてきたのだと、堂々と言い切れます。あとは、「自分はこの本と出会うために生まれてきた」と思ってくださる方が一人でも増えることを念じてやみません。

今年は、ほんとこれに尽きましたね。来年は第2巻も刊行予定です。残り3冊完結できるように、しっかり編集を頑張りたいと思います。

テーラワーダと禅――「悟り」への新時代のアプローチ

テーラワーダと禅――「悟り」への新時代のアプローチ

 

テーラワーダと禅――「悟り」への新時代のアプローチ』は藤田一照さんとの対談集です。サンガジャパンの連載をまとめたもの。藤田さん対談中は聞き手に徹してましたが、巻末の加筆ではテーラワーダ仏教について、禅仏教の立場からあれこれツッコミを入れてます。長老は華麗にスルーするという形で回答。食い足りない、という方もいれば、これでいいのだ、と得心する方もいるでしょうね……。

『こころおだやかにニャる ゆるねこ×ブッダの言葉』2018年に出した子猫×ブッダの言葉カレンダーがわりと好評だったようで、第二弾の企画が来ました。今回は毎月の言葉を「サンユッタニカーヤ(相応部)」の経典から採録・意訳しています。個人的には、『辛くてもマイペースで生きる 野良猫×ブッダの言葉』カレンダーとか作ってみたいんですけど、なかなか聞いてもらえません……

『一瞬で心を磨くブッダの教え――ブッダの教え3』サンガの既刊からテーマ別に文章を拾った名言集です。忙しい時にも拾い読みできるし、出典明記されてるので本書から長老の膨大な著作にアクセスするきっかけにもなるし、こういう「まとめ系」企画もけっこう大切だなと思います。

ブッダの瞑想と脳科学――心を一気に進化させる仏教の脳開発プログラム』こちらは類似するテーマを扱った協会施本『なんのために冥想するのか?』(2016)と『ブッダと脳―こころはどこで成長するのか?』(2017)を合冊再構成した作品です。協会会員向けのテキストが底本なので、語り口は厳しく理詰めでゴリゴリしてます。脳科学と瞑想に関する著作はいろいろ出てるけど、スマナサーラ長老のこういう直球ぶん投げる感じの本も一般書店に並んでいてほしいなと思って企画しました。

がんを治す心の力 (仏教と統合医療が語る、豊かに生きるための「心と体のメカニズム」)

がんを治す心の力 (仏教と統合医療が語る、豊かに生きるための「心と体のメカニズム」)

 

年末に刊行されたがんを治す心の力 ――仏教と統合医療が語る、豊かに生きるための「心と体のメカニズム」』の成り立ちについては、対談相手である小井戸一光先生のまえがきに詳しいです。長老の札幌講演を一貫してサポートして下さっている福士宗光さん(ケルプ研究所社長)や石飛道子先生(札幌大谷大学教授)とのご縁の賜物です。素材になった最初の公開対談は2012年に行なわれており、それから2013年、2016年、2018年と繰り返された対話の成果が熟成されて本になったのですね。医療従事者やがん患者さんとそのご家族の心に届く深い内容に仕上がったと思います。ちなみに、宗教やスピリチュアルに傾倒した医師(小井戸先生はその辺と一線を画しています)や研究者が口走りがちな「サムシンググレート」について、スマナサーラ長老は対談の中ではっきり否定しています。

仏教では、サムシンググレートがどうこう、ではなく、因果法則の結果、生まれたのだと簡単に説明します。因縁がそろったら、その結果にならざるを得ないのです。(202p)

生命はみんな非科学的な行為をしているだけです。生命とは、サムシンググレートというべきものではなく、誰かに管理されて、誰かの指令によって動いているものでもありません。「神が命じたので、私はあなたと恋に落ちることにしました」ということは、決して成り立たない。なぜならば、「あなたが恋に落ちたのはあなたの勝手で、私はあなたのことが大嫌い」という相手の反応もあり得るのですから。サムシンググレートか、神の指令であるならば、互いになんの異論も感じず相思相愛になるはずです。生命の仕組みを説明するときに使った、サムシンググレートという概念はどうかと思いますよ。(207p)

Samgha JAPAN(サンガジャパン) vol.29 (2018-04-25) [雑誌]

Samgha JAPAN(サンガジャパン) vol.29 (2018-04-25) [雑誌]

 

雑誌記事ですが、『サンガジャパン』vol.29にはスマナサーラ長老のスリランカでの講演録「苦しみは希望がつくる 」が掲載されています。サンジャパの他号については、別記事で。

電子書籍

それならブッダにきいてみよう

『それならブッダにきいてみよう』シリーズはAmazonKindleのオリジナル企画です。日本テーラワーダ仏教協会の月刊機関誌『パティパダー』に連載されてきたスマナサーラ長老のQ&Aコーナーから、テーマ別に昨年12月から刊行開始して、 こころ編1・2、人間関係編、教育編、ライフハック編、想実践編1・2の計7タイトルが出ました。来年には合冊版や新たなQ&Aをまとめた続編も出したいと思ってます。版元のウエスタパブリッシングさんのFBページで内容見本を読めますよ。

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スマナサーラ長老クラシックス

4作品まとめて並べました。Evolvingさんからは、底本の版元(学研、大法輪閣)に電書化の意思がないことを確認したタイトルの電子版を2016年から出してもらっています。おかげさまで好評なのですが、刊行時期が10年以上前のものも含まれるので、読者の利便性を考えて「スマナサーラ長老クラシックス」というシリーズ名に統一してもらった次第です。内容を改めて校正し直し、表紙も新たにデザインしています。あと何冊か、刊行予定があります。

もしかすると抜けがあるかも知れませんが、今年はこんな感じでありました。来年も良質な仏教書を世に出せるように精進してまいりたいと思います。

 

~生きとし生けるものが幸せでありますに~