馬場紀寿氏、『初期仏教 ブッダの思想を辿る』岩波新書における「布施」トンデモ語源説を撤回
去る9月13日のブログ記事にて、
馬場紀寿先生、ダーナの訳語である布施の「布」を「(衣の)布」のことだと断言してる。これ誤解じゃないのかな?
と疑問を呈したTwitter書き込みを引用しました。
「布施」の件について辞書類を確認しましたが、「布(ぬの)をほどこす」という解釈は間違いで、「しき・ほどこす」が正しいようです。布施(ふし)は『莊子』など先秦時代(仏教伝来以前)漢籍でも使われて、後にダーナの訳語に用いられました。画像は、岩波仏教辞典、字通、佛教語大辞典の該当箇所。 pic.twitter.com/E7D5kVPEle
— nāgita #antifa (@naagita) August 24, 2018
この件、御本人にも直接メールしたものの返信がなく(その後、驚くようなリアクションにも遭いましたが、関係者にご迷惑がかかるので墓場までもっていきます)このまま黙殺する方針なのかな?と憂慮していたのですが、岩波新書編集部インタビュー「B面の岩波新書」にて、該当箇所を訂正(全削除)する旨の表明がありました。……さすが超一流出版社の岩波書店ともなると、幻冬舎とは違いますね。
著者の間違いではなく、編集者による校正ミスの訂正という形を取っていますが、本文に記載されていた「布施」語源に関する馬場氏の以下の解釈は全削除ということです。【『初期仏教 ブッダの思想をたどる』本文の訂正】この場を借りて、校正で直しきれなかった誤記誤植を、お詫びとともに訂正させていただきます。p.6, l.3. brāhmana ⇒ (正) brāhmaṇap.47図8 ブッダの出家 ⇒ (正) ゴータマの出家p.113, ll.5–7. 「布施」と漢訳されたのは、 ⇒ (正) 削除p.198, l.12. 英和 ⇒ (正) 英知巻末p.2経典番号97. Dhañjānisutta ⇒ (正) Dhanañjānisutta
「布施」と漢訳されたのは、出家者に衣の「布」を「施」すことが主要な贈与のひとつだったからである。
繰り返しますが、布施の「布」は布教や流布の「布」であって、「布(ぬの)をほどこす」という解釈は間違いです。正しくは「しき・ほどこす」という意味になります。布施(ふし)の語は『莊子』など先秦時代(仏教伝来以前)漢籍でも使われて、後にダーナ(dāna)の訳語に用いられました。
残念ながら『初期仏教』はまだ増刷されていないようで、書店には謬説を断言してるバージョンが出回っていますが、当該の岩波書店記事やこちらのブログ記事を読んだ方だけでも、誤解から解放されてほしいと思います。
(まぁ、手元にある漢和辞典を引けばいいだけの話なんですが……)
~生きとし生けるものが幸せでありますように~