2018年第三回「ひじる仏教書大賞」を発表――『朝鮮思想全史』『神道・儒教・仏教――江戸思想史のなかの三教』がダブル受賞!

年の瀬となってまいりましたが、今年も「ひじる仏教書大賞」を発表したいと思います。賞と名付けているからには、自分が直接かかわった本を選んではいけないという倫理観で臨んだのですが、今年はとにかくスマナサーラ長老の『スッタニパータ 第五章「彼岸道品」』シリーズを刊行できたことでお腹いっぱいになっちゃった感じはありますね。

スッタニパータ 第五章「彼岸道品」

スッタニパータ 第五章「彼岸道品」

 

Twitterでエモいこと書いてしまいました。

ホントに良い本なので、ぜひ読んでください。で、受賞作ですが、2作品です。まずは小倉紀蔵『朝鮮思想全史』ちくま新書

朝鮮思想全史 (ちくま新書)

朝鮮思想全史 (ちくま新書)

 

 読みどころについては、Twitterにメモったのでどうぞ

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それから森和也『神道儒教・仏教──江戸思想史のなかの三教』ちくま新書

神道・儒教・仏教 (ちくま新書)

神道・儒教・仏教 (ちくま新書)

 

こちらも読みどころをTwitterでメモりました。

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ちくま新書レーベルから2作品が受賞ですね。副賞とか特にありませんけど、おめでとうございます。(^^♪

仏教書大賞といいつつ、仏教「も」扱っている本を選んだわけですが気にしないでください。2タイトルとも、仏教のみに焦点を絞った書籍からは得られない豊富な知見を仏教書好きに与えてくれますので。東アジア諸国の仏教との相互関係、それと近世仏教史(日本の江戸時代)の見直し掘り起こし。この二つの視座(重なり合うところも多い)でもって日本仏教について考察していくことが、「近代仏教史ブーム」以降の仏教研究を豊かに耕すため必須になってくると思いますね、はい。

後者の近世仏教史については、早世された西村玲さんの遺稿集『近世仏教論』法蔵館も今年、刊行されました。ほんとはこの本に大賞を差し上げたかったのですが、西村さんのこと個人的にファンすぎて胸が詰まるのでやめました。『神道儒教・仏教』と併せて読めば、近世仏教という領域がいかに刺激的で豊饒な沃野かということが理解できてワクワクしてくると思います。

近世仏教論

近世仏教論

 

ちなみに、ちくま新書からは他にも仏教関連の面白いタイトルが出ていましたね。『仏教論争――「縁起」から本質を問う』は、宮崎哲弥さんが座談以外の仏教書単著に挑んだことで話題になりました。

仏教論争 (ちくま新書)

仏教論争 (ちくま新書)

 

読書メモはこちら。

 ウェブサンガに藤本晃さんの書評が出てて、たいへん勉強になるので併せて読んで欲しいです。

あと、さっきざっと読んだばかりだけど、吉村均『チベット仏教入門』も非常に良質な入門書だと思いました。

チベット仏教入門 (ちくま新書)

チベット仏教入門 (ちくま新書)

 

近代仏教学批判という文脈では、藤本晃さんの問題意識と(チベット系とテーラワーダ系という宗派の違いはあれども)共通していますね。前著『空海に学ぶ仏教入門 (ちくま新書)』を読んでいても思ったんですが、吉村均さんはたとえ話が巧みで的確なんですね。きちんと行に裏付けられた仏教理解であることの証左だと、個人的には思っています。

話が前後しますが、藤本晃さんの『部派分裂の真実――日本仏教は仏教なのか?3』では、佐々木閑さんによる『ごまかさない仏教』での名指し批判に名指しで反論しており、論争ラヴァ―のわいちゃん驚喜でございました。ぜひ立ち消えせずに議論が深まりますように。

部派分裂の真実 (日本仏教は仏教なのか? 第三巻)

部派分裂の真実 (日本仏教は仏教なのか? 第三巻)

 

 翻訳書では、サンガからリチャード・ゴンブリッチ浅野孝雄 訳)『ブッダが考えたこと――プロセスとしての自己と世界』が刊行されたことにまたまた驚喜。

ブッダが考えたこと ―プロセスとしての自己と世界―

ブッダが考えたこと ―プロセスとしての自己と世界―

 

ゴンブリッチさん、わりと寸止めな感じの書きっぷりなので、一読してすっきりできるカジュアルさは皆無です。でも、手元に置いてちょいちょい目を通すことで触発されることは多いはず。サンガジャパン最新号(31号)に載った拙稿「仏教とジレンマ」でもさっそく引用させてもらいました。

倫理――理性と信仰 (サンガジャパンVol.31)

倫理――理性と信仰 (サンガジャパンVol.31)

 

サンガからはスリランカにおける仏教哲学の泰斗『K. N. ジャヤティラカ博士論文集 第1巻――仏教社会哲学の様相/仏教観からの倫理』も出ましたね。

K. N. ジャヤティラカ博士論文集 第1巻 (仏教社会哲学の様相/仏教観からの倫理)

K. N. ジャヤティラカ博士論文集 第1巻 (仏教社会哲学の様相/仏教観からの倫理)

 

正直、これだけ読んでもなんだかよくわからないのですが、ジャヤティラカ博士がアーノルド・トインビーの仏教理解に反論したやりとりはその後の顛末がどうなったか気になるところです。

翻訳を担当された川本佳苗さんのウェブサンガ記事が超面白いのでおススメです。

川本さんはミャンマー留学中にセヤレー・スナンダとして出家修行されていたそうです。そのミャンマーの宗教省が刊行した『テーラワーダ仏教ハンドブック――ブッダの教えの基礎レベル』も今年、サンガから出ましたね。文字通り教科書的なテーラワーダ仏教のテキストとして、勉強になる内容もけっこう載ってます。

テーラワーダ仏教ハンドブック (ブッダの教えの基礎レベル)

テーラワーダ仏教ハンドブック (ブッダの教えの基礎レベル)

 

そんなところでしょうか? 毎年恒例の「ひじる仏教書大賞」記事でした。あとは年内に、今年のお仕事回顧的な記事を挙げるかもしれません。

あ、あとね。仏教書という枠には入らないけどリベラルアーツすげぇ!フェミニズムすげぇ!と思って目から鱗落ちまくったのは堀越英美『不道徳お母さん講座――私たちはなぜ母性と自己犠牲に感動するのか』河出書房新社ですね。

同書の第三章で検証される、現代国語教育における「ありのままは本当にありのままか」問題は、実は『神道儒教・仏教』で詳述された本居宣長の古典研究の誤読(あるいは先鋭的解釈)によりもたらされた日本的「心情のファシズム」が現代も生き続けている例だったりするわけです。

終わらなくなってきたところで、終わります。

 

~生きとし生けるものが幸せでありますように~