2018年第三回「ひじる仏教書大賞」を発表――『朝鮮思想全史』『神道・儒教・仏教――江戸思想史のなかの三教』がダブル受賞!
年の瀬となってまいりましたが、今年も「ひじる仏教書大賞」を発表したいと思います。賞と名付けているからには、自分が直接かかわった本を選んではいけないという倫理観で臨んだのですが、今年はとにかくスマナサーラ長老の『スッタニパータ 第五章「彼岸道品」』シリーズを刊行できたことでお腹いっぱいになっちゃった感じはありますね。
Twitterでエモいこと書いてしまいました。
スマナサーラ長老の新刊『スッタニパータ 第五章「彼岸道品」』第一巻がついに刊行されました。中村元博士の邦訳『ブッダのことば スッタニパータ』(岩波文庫)を通して、前世紀から「これこそ原始仏典」という評価が日本で定着したスッタニパータ(経集)。文献学的に再古層とされる後半箇所の https://t.co/M10F16N7uO
— nāgita #antifa (@naagita) May 21, 2018
ホントに良い本なので、ぜひ読んでください。で、受賞作ですが、2作品です。まずは小倉紀蔵『朝鮮思想全史』ちくま新書。
読みどころについては、Twitterにメモったのでどうぞ
それから森和也『神道・儒教・仏教──江戸思想史のなかの三教』ちくま新書。
こちらも読みどころをTwitterでメモりました。
ちくま新書レーベルから2作品が受賞ですね。副賞とか特にありませんけど、おめでとうございます。(^^♪
仏教書大賞といいつつ、仏教「も」扱っている本を選んだわけですが気にしないでください。2タイトルとも、仏教のみに焦点を絞った書籍からは得られない豊富な知見を仏教書好きに与えてくれますので。東アジア諸国の仏教との相互関係、それと近世仏教史(日本の江戸時代)の見直し掘り起こし。この二つの視座(重なり合うところも多い)でもって日本仏教について考察していくことが、「近代仏教史ブーム」以降の仏教研究を豊かに耕すため必須になってくると思いますね、はい。
後者の近世仏教史については、早世された西村玲さんの遺稿集『近世仏教論』法蔵館も今年、刊行されました。ほんとはこの本に大賞を差し上げたかったのですが、西村さんのこと個人的にファンすぎて胸が詰まるのでやめました。『神道・儒教・仏教』と併せて読めば、近世仏教という領域がいかに刺激的で豊饒な沃野かということが理解できてワクワクしてくると思います。
ちなみに、ちくま新書からは他にも仏教関連の面白いタイトルが出ていましたね。『仏教論争――「縁起」から本質を問う』は、宮崎哲弥さんが座談以外の仏教書単著に挑んだことで話題になりました。
読書メモはこちら。
宮崎哲弥『仏教論争 「縁起」から本質を問う』ちくま新書1326 読んでる。もっぱら短評と座談の人というイメージだった宮哲さんだけど、いよいよ本格的な仏教書をものした!しかも近現代日本仏教学における「縁起」論争を丹念に読み直すという思想史寄り?のお仕事。まだ通読してはいないけど、 pic.twitter.com/1TPqD5SWJO
— nāgita #antifa (@naagita) May 10, 2018
ウェブサンガに藤本晃さんの書評が出てて、たいへん勉強になるので併せて読んで欲しいです。
あと、さっきざっと読んだばかりだけど、吉村均『チベット仏教入門』も非常に良質な入門書だと思いました。
近代仏教学批判という文脈では、藤本晃さんの問題意識と(チベット系とテーラワーダ系という宗派の違いはあれども)共通していますね。前著『空海に学ぶ仏教入門 (ちくま新書)』を読んでいても思ったんですが、吉村均さんはたとえ話が巧みで的確なんですね。きちんと行に裏付けられた仏教理解であることの証左だと、個人的には思っています。
話が前後しますが、藤本晃さんの『部派分裂の真実――日本仏教は仏教なのか?3』では、佐々木閑さんによる『ごまかさない仏教』での名指し批判に名指しで反論しており、論争ラヴァ―のわいちゃん驚喜でございました。ぜひ立ち消えせずに議論が深まりますように。
サンガから新刊見本が届いた。編集構成を担当したスマナサーラ長老『慈悲の瞑想フルバージョン』と一緒に、藤本晃さんの新刊も献本賜った。佐々木閑さんから『ごまかさない仏教』で名指し批判を受けたのに対して、表紙に佐々木さんの名前まで入れて、堂々と反論を繰り広げている。#仏教書 pic.twitter.com/CU0PIG3Xh3
— nāgita #antifa (@naagita) February 23, 2018
翻訳書では、サンガからリチャード・ゴンブリッチ(浅野孝雄 訳)『ブッダが考えたこと――プロセスとしての自己と世界』が刊行されたことにまたまた驚喜。
- 作者: リチャード・ゴンブリッチ,Richard Gombrich,解説:藤田一照,浅野孝雄
- 出版社/メーカー: サンガ
- 発売日: 2018/04/25
- メディア: 単行本
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ゴンブリッチさん、わりと寸止めな感じの書きっぷりなので、一読してすっきりできるカジュアルさは皆無です。でも、手元に置いてちょいちょい目を通すことで触発されることは多いはず。サンガジャパン最新号(31号)に載った拙稿「仏教とジレンマ」でもさっそく引用させてもらいました。
- 作者: アルボムッレ・スマナサーラ,南直哉,鄭雄一,永井均,ネルケ無方,末木文美士,佐々井秀嶺,田口ランディ,佐々涼子,島田啓介,鎌田東二,辻村優英,浦崎雅代,漁一吉,三砂慶明
- 出版社/メーカー: サンガ
- 発売日: 2018/12/25
- メディア: 単行本
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サンガからはスリランカにおける仏教哲学の泰斗『K. N. ジャヤティラカ博士論文集 第1巻――仏教社会哲学の様相/仏教観からの倫理』も出ましたね。
K. N. ジャヤティラカ博士論文集 第1巻 (仏教社会哲学の様相/仏教観からの倫理)
- 作者: K. N.ジャヤティラカ,川本佳苗
- 出版社/メーカー: サンガ
- 発売日: 2018/11/23
- メディア: 単行本
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正直、これだけ読んでもなんだかよくわからないのですが、ジャヤティラカ博士がアーノルド・トインビーの仏教理解に反論したやりとりはその後の顛末がどうなったか気になるところです。
翻訳を担当された川本佳苗さんのウェブサンガ記事が超面白いのでおススメです。
川本さんはミャンマー留学中にセヤレー・スナンダとして出家修行されていたそうです。そのミャンマーの宗教省が刊行した『テーラワーダ仏教ハンドブック――ブッダの教えの基礎レベル』も今年、サンガから出ましたね。文字通り教科書的なテーラワーダ仏教のテキストとして、勉強になる内容もけっこう載ってます。
- 作者: ミャンマー連邦共和国宗教省,西澤卓美,(宗)日本テーラワーダ仏教協会[日本版責任],影山幸雄
- 出版社/メーカー: サンガ
- 発売日: 2018/11/30
- メディア: 単行本
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そんなところでしょうか? 毎年恒例の「ひじる仏教書大賞」記事でした。あとは年内に、今年のお仕事回顧的な記事を挙げるかもしれません。
あ、あとね。仏教書という枠には入らないけどリベラルアーツすげぇ!フェミニズムすげぇ!と思って目から鱗落ちまくったのは堀越英美『不道徳お母さん講座――私たちはなぜ母性と自己犠牲に感動するのか』河出書房新社ですね。
堀越秀美『不道徳お母さん講座 私たちはなぜ母性と自己犠牲に感動するのか』河出書房新社
— nāgita #antifa (@naagita) July 30, 2018
読んでるんだけど、無茶苦茶おもしろいじゃないか!これぞリベラルアーツ(人間を自由にする表現活動)の真骨頂と言うべき内容。今年、絶対に読むべき一冊として強く勧めたい。 https://t.co/8XtKeRDAOp
同書の第三章で検証される、現代国語教育における「ありのままは本当にありのままか」問題は、実は『神道・儒教・仏教』で詳述された本居宣長の古典研究の誤読(あるいは先鋭的解釈)によりもたらされた日本的「心情のファシズム」が現代も生き続けている例だったりするわけです。
終わらなくなってきたところで、終わります。
~生きとし生けるものが幸せでありますように~