2016年に出たスマナサーラ長老の本(2)電子書籍

今年の更新のしめくくりとして、2016年に刊行されたスマナサーラ長老の電子書籍を紹介したいと思います。紙で出版した新刊タイトルの大半は少し遅れてkindle化されていますので、それらは除外します。日本テーラワーダ仏教協会(JTBA)から刊行した電子書籍が中心となります。

1『充実感こそ最高の財産―今この瞬間を生き切ればいい』JTBA。2002年に刊行された同タイトルを電書にしました。ダンマパダ(法句経)の一節から展開される人生論です。掌編ながら、人生でほんとうに大切なものは何なのか、問い直すきっかけになる良著だと思います。

仕事でいちばん大切なこと
 

2『仕事でいちばん大切なこと』Evolving。2009年にマガジンハウスから刊行された本の電書版。長老がビジネスマンの悩みにズバリ答えたQ&A集。初対面の相手に緊張してしまう。隣に座っている同僚がどうも苦手だ。朝、起きるのがつらい。仕事に目的意識が持てない。お金の使い方が分からない。いまの仕事が「ほんとうの仕事」だと思えない、グローバリゼーションってなに……といった、働く人なら誰でも抱える日々の悩みや疑問を、どう解決すればいいのか。「ビジネスマンをパワーアップするヴィパッサナー瞑想」「生きるのが楽になる慈悲の瞑想」のマニュアルも掲載しています。

3『わたしたち不満族 満たされないのはなぜ?』JTBA。2006年に協会施本として刊行された施本(のちに国書刊行会から単行本化)がベースになった作品です。多くの人々は、なんらかの「不満感」「不服」「欠落感」「喪失感」といったものをかかえて生きていると思います。そして、それが「満たされる」可能性は、きわめて低いのです。お釈迦さまは、「苦(ドゥッカ)」についての教えのなかで、「求めるものが得られない苦しみ」を説かれました。はたして私たちは、この苦しみを乗り越え、「満足感」を得ることができるのでしょうか。この得体のしれない「不満感」は、どこから生じているのでしょう。「不満」の謎を究明し、なにがあっても失われない「満足感」を味わうために、ブッダの智慧を学びましょう。

4『ブッダが幸せを説く: 人の道は祈ることより知ることにある』JTBA。2001年協会刊の電書化。わずか一握りの人にだけ実現できるものは「人類の幸福」にはなりません。幸福とはすべての人間に実現できなければ無意味なのです。仏教が提唱する「すべての人間に実現できる幸福」とは何なのでしょうか? タイトルでも雄弁に語られているように、信仰や宗教に頼る不安な生きかたを脱却して、幸福に満たされた「目覚め」の人生を歩むことを力強く薦める啓蒙的な一冊に仕上がっています。

5『デキる人の秘密 仏教の性格判断と能力開発法』JTBA。2010年に国書刊行会より刊行されたタイトルを電書化。アビダンマ『人施設論』などに基づいた、テーラワーダ仏教の人間学を紹介した異色作です。本の冒頭で、スマナサーラ長老は「われわれは、どうして人の性格を知りたがるのかというと、まずその人を支配したいからなのです。それは、とんでもない罪なのです。」と言い切ります。性格判断をしたがること自体が、私たちのこころの弱みなのです。本書は世俗の性格判断と仏教の性格判断の違いを鮮明にしつつ、性格判断にまつわる「弱み」から自分自身を解き放ち、ブッダの説かれた能力開発法に明るい気持ちでチャレンジしようと促してくれます。勇気が出る本です。

6『怒りの無条件降伏 中部経典『ノコギリのたとえ』を読む』JTBA。2004年協会刊の電書化。中部21『鋸喩経(カカチューパマ・スッタ)』を全文解説した作品です。怒りに囚われてトラブルを惹き起こしたある比丘に向けて、お釈迦さまは徹底した「怒りの克服」と「慈悲の実践」を説きました。たとえ盗賊に捕まって、生きたままノコギリで身を切られたような目に遭っても、相手に怒りを抱いてはいけないよ、という壮絶な喩え話がタイトルとなっています。出家者に対する説法ではありますが、経典のなかで語られる貴婦人と女奴隷のエピソード(いつもは温和な人であっても不快な言葉に接することで怒りに駆られてしまう危険性を説いた逸話)、他者から投げかけられる様々な批判の言葉への対処法、慈悲の冥想で体得すべき「大地のような心」「虚空のような心」「大河のような心」の解説など、時代や立場を超えた怒りの克服、慈しみの成長のありかたが懇切丁寧に説かれています。「怒らないこと」こそ、仏弟子にとって重要な修行なのだと学べる一冊です。「釈迦牟尼仏陀の世界 聖なるこころを体験しましょう」(慈悲の実践フルバージョン)とも関係が深い経典です。

7『お釈迦様のお見舞い 気づきと正知による覚りへの道』JTBA。初出は2008年刊の協会施本。パーリ相応部六処篇『疾病経』(一)に基づいて、ブッダが病気の弟子たちを見舞った際に指導した自己観察を学びます。瞑想初心者から最終的な覚りの段階までの実践プロセスがコンパクトにまとめられており、「気づき(sati)」の大切さがよく理解できる本です。 

8『自殺と「いじめ」の仏教カウンセリング』JTBA。2007年に宝島新書で刊行した同タイトルをもとに電書化しました。人間が自殺願望を持つのは当たりまえ、という仏教の考えかたをもとに、「死にたくなる」気持ちを乗り越え、熾烈な「いじめ」と向き合い、人生を巧みにサバイバルする道を探ります。読み応えという意味では、スマナサーラ長老のたくさんの著作のなかでも、随一だと思います。

 

紙媒体と同時進行のものを除いた、協会プロデュースによる電子書籍化タイトルは以上8点ですが、他に佼成出版社の既刊3タイトルも今年2月に一挙電子書籍化されました。

原訳「法句経(ダンマパダ)」一日一話

原訳「法句経(ダンマパダ)」一日一話

 
原訳「法句経(ダンマパダ)」一日一悟

原訳「法句経(ダンマパダ)」一日一悟

 
原訳「スッタ・ニパータ」蛇の章

原訳「スッタ・ニパータ」蛇の章

 

ダンマパダから精選した偈の翻訳と解説で構成された『原訳「法句経(ダンマパダ)」一日一話』(2003年)、その続編にあたる『原訳「法句経(ダンマパダ)」一日一悟』(2005年)、スッタニパータの巻頭を飾る「蛇経」全訳と解説『原訳「スッタ・ニパータ」蛇の章』(2009年)、いずれもスマナサーラ長老の代表作です。なお、『原訳「法句経(ダンマパダ)」一日一話』は、角川文庫版『心に怒りの火をつけない ブッダの言葉〈法句経〉で知る慈悲の教え』の電子書籍と同じ内容です。

 

Amazon.co.jpKindleカテゴリーで検索すると、2016年12月29日現在、スマナサーラ長老の書籍が99点並んでいますKindleの「仏教」カテゴリーは996点ですから、ほぼ1割がスマナサーラ長老の本ということにもなります)。そのうちKindle Unlimited 読み放題対象になっているのは64点です。5巻まで電書化されている『ブッダの実践心理学』シリーズも含まれるので、初期仏教好きの読者にとっては、かなりお得感のあるサービスになっているのではないでしょうか?

 

というわけで、ひととおり今年の仕事を振り返ったので年内の「ひじる日々」更新はこれにて終了としたいと思います。2015年に比べると記事数が激減してしまいましたが、Twitter(@naagita)や新しく開設したnoteページ(商業誌等に寄稿したテキストのアーカイブが基本)とうまく使い分けながら、来年もものずきな仏教系ブログとして歩みを続けていきたいと思います。

 

「ひじる日々」読者の皆様がいつでも幸福安穏でありますように。

 

~生きとし生けるものが幸せでありますように~