ブッダの対話術(スマナサーラ長老の法話より)

スマナサーラ長老『ブッダはマジシャン?』(立川朝日カルチャー初期仏教入門メモ2011年10月10日)

今日はブッダの対話術を紹介します。他者の思考の自由を奪わずにプレゼンテーションするのは難しい。釈尊はそれを実践したのです。バッディヤとの対話(出典:パーリ増支部4集193)。『釈尊はアーヴァッタニという魔術で他宗教の行者達が自分に惹かれてしまうようにする』と言われていますが…

ヒンドゥー教は排他宗教ではない。出入りは自由。仏教もヒンドゥー文化にいたので、気がつくと他宗教の行者も釈尊の元に押しかけていた。それで信者も減るので、他宗教のグルも困った。そこで、これは何かの誘引魔術では?と訝ったのです。(インドでは何かと魔術をかけるので)バッディヤは、これが本当かと釈尊に訊いたのです。

釈尊の答え:(答えの前提として、先入観を捨てること)

1.maa anussavena伝承(聞伝)に頼るなかれ。…インドの聖典を基準にすること。

2.maa paramparaaya 代々の言い伝え(家伝)に頼るなかれ。

3.maa itikiraaya そうだと言われるから(皆がこう言っているから、ニュースにあったから)…

4.maa piTakasampadaanena 本・テキストに記してあったからと、それに頼るなかれ。…現代人にも根深い弱み。

5.maa takkahetu 理屈は通っているからといって…

6.maa nayahetu 論理的だからといって…

7.maa aakaaraparivitakkena 話の内容から推測できるからといって…

8.maa diTThijjhaanakkhantiyaa 人の見解、主義に合っているからといって…

9.maa bhabbaruupatayaa あり得る、可能性があるからといって…

10.maa 'samaNo no garuu' ti 釈尊を尊敬しているからといって(語る人が目上なので否定できない)…

※以上10の先入観を捨てるようにと先ず戒める。これからも人類はこの弱みに引っかかる。だから気を付けよとハイライトするのです。

釈尊:これは不善、過ち、理性ある人に非難される、この教えの通り生きてみれば、苦しみ・不幸に陥るのだ、とバッディヤ、自分自身で知っているなら、その教えを捨てなさい。

釈尊:人の心に貪りが起きたらそれはその人の利益になる?不利益になる?どう思いますか?

バッディヤ:尊師、不利益になります。

釈尊:欲に絡んで欲に溺れて…殺生などの悪行為する、他人にも勧める。その行為は長きにわたってその人に不幸を齎す。どう思いますか?

バ:尊師、その通りです。

釈尊:人の心に瞋恚が起きたならば… 痴が起きたならば… 張り合い(saarambho 怒りで闘うこと、怨み持つこと)が起きたならば… (同上)

 ※こうやって繰り返す事で頭が整理されます。ロジカルな方が脳はしっかり内容を憶えるのです。釈尊は感情に訴えることはない。また、ここでは良く知られる貪瞋痴ではなく、人が悪を犯す原因を4つ(貪・瞋・痴・張り合い)挙げている。悪行為も10悪ではなく、殺生・盗み・邪淫・嘘・(それらを)他人に勧める、の5つです。

釈尊:どう思う?これらは善・不善?

バ:不善です。…

※このように相手に答えを出させて思考を整理整頓させる。

釈尊:1〜10の理由で鵜呑みにしてはいけないと、不善だと自分で知っているならそれを捨てなさいと、先に告げました。その言葉の意義はこれです。(貴方自身で「その通りである」と認めたのです。

※先入観を捨てて理解する方法を教えてあげたのです。

ピュアな心で物事を観察するのは至って簡単です! 不善の次は、善についても同じ問答を繰り返します。善行為5(不殺生・不盗・不邪淫・不妄語・他に勧める) 善行為を起こす原因(不貪・不瞋・不痴・張り合わないこと(和合))。

釈尊:この世で心が安穏に達した善人は弟子たちをこのように導きます。『来たれ、人よ、貪りを戒めましょう。貪りを戒めると貪りにより起こる身体・言葉・思考での行為は無くなるでしょう。』と。

※悪を離れる方法を心理学的に示しているところです。仏教は『戒律主義』ではなく、心を整えることで自由に生きる方法を説いているのです。瞋恚・痴・張り合い についても同じように語られる。人間が悪行為するのは心の衝動によります。心を清らかにすれば簡単でしょう。

これを聴いたバッディヤさん、感激して「在家信者になる」と宣言します。意見を強引に押し付けることなく、相手の自由思想認めてマインドコントロールする事なく、真理を語った釈尊に感激したのです。

釈尊:バッディヤくん、僕はきみに『弟子になれ』って頼んだっけ? 

バ:とんでもございません! 

釈尊:このように語る私を、一部の沙門、バラモンたちは何の根拠もなくバッシングして非難するんだよ。沙門ゴータマは誘引魔術で他宗教の人達と誘っているとね。

バ:尊師の誘引魔術はとても善いっすよ!とても素晴らしいです。私の親しい人々、血縁の人もみんな誘引されてほしい。それが彼らにとって長きに渡る幸福な道になりますよ。すべての人々(四族)が惹かれてほしいです!

釈尊:その通りです。すべての四族がこの真実に惹かれて不善を戒めて善を行う生き方すれば長きに渡る幸福になります。神々・梵天・魔も、この魔術にかかれば幸福になりますよw

※人は誰も自由を奪われたくない。マインドコントロールされたくないと思いながらも、操作されて生きているのです。釈尊は人が本来求めている心の自由を目の当たりに見せてくれるのです。それで人々が歓喜して仏教徒になったのです。この経典は「人々に自由に自分の足で立って欲しい」という、ブッダのメッセージなのです。

(終わり)

 

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 新刊です。スマナサーラ長老がテーラワーダ仏教における真理観をその歴史的変容と併せて縦横に語った高野山大学での講演録と、関連するテキストを収録。

 

~生きとし生けるものが幸せでありますように~