「戦後70年の安倍首相談話」と戦後民主主義の前進
昨晩、安倍晋三首相の戦後七十年談話が発表された。www.asahi.com
一読して、また動画で談話全体を確認して、「それなりに練られた文章ではあるな」と思ったのは事実だ。少なくとも、スピーチライターの有能さは伝わってくる。
百年以上前の世界には、西洋諸国を中心とした国々の広大な植民地が、広がっていました。圧倒的な技術優位を背景に、植民地支配の波は、十九世紀、アジアにも押し寄せました。その危機感が、日本にとって、近代化の原動力となったことは、間違いありません。アジアで最初に立憲政治を打ち立て、独立を守り抜きました。日露戦争は、植民地支配のもとにあった、多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけました。
の箇所を批判する向きもあるが、日露戦争の結果に被植民地アジアの知識人たちが熱狂したのは歴史的事実。拙著『大アジア思想活劇―仏教が結んだ、もうひとつの近代史』でも触れている。ただ、日露戦争の勝利を下支えした日英同盟はアジアの独立運動を抑圧する方向で働いたので、幻滅に変わるのも時間の問題だったのだが。
日露戦争までを近代日本の栄光として、そこから先を混迷の歴史とする歴史観は40代以降の知識的大衆に共有されているので、そこをネチネチ批判してもマニアックな議論にしかならず筋が悪いだろう。
ただし、日露戦争に触れておいて、日韓併合の件は見事にスルーしてるのはいただけない。ここは隣国への礼儀として、一言あって欲しかったところだ。それ以外の箇所は、わりと評価します。安倍ちゃん……というか、彼に首輪をつけてここまで誘導した皆さんご苦労さまでした。
あ、あと一カ所、
寛容の心によって、日本は、戦後、国際社会に復帰することができました。戦後七十年のこの機にあたり、我が国は、和解のために力を尽くしてくださった、すべての国々、すべての方々に、心からの感謝の気持ちを表したいと思います。
のくだりで、サンフランシスコ講和会議でのジャヤワルデナ発言を出してほしかったと、スリランカの皆さん歯噛みしとるでしょうな。本日、終戦記念日の式典では、天皇陛下が
発展に向け払われた国民のたゆみない努力と、平和の存続を切望する国民の意識に支えられ、我が国は今日の平和と繁栄を築いてきました。……ここに過去を顧み、さきの大戦に対する深い反省と共に、今後、戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い、
という戦後民主主義を言祝ぐようなお言葉を述べられたことと併せてみれば、(式典で安倍がアジア侵略に触れなかったとしても)平和国家日本の戦後民主主義は、安倍ファシスト政権の台頭をもってしても尚、決して後退ばかりはしていない。反動勢力と陣地の取り合いをしつつ、まだまだ前進し続けていると確信したのでありました。
安倍談話を聴いていたら、ふと自著を読み返したくなった。未読の方はこの機会にぜひ!
追伸:
記事の中で拙著へのリンクを貼ったけど、そういや近代仏教史に関しては、おらは「歴史修正主義」的なアプローチをしていたことを思い出した。マルクス史学に影響された《仏教者ももうちょっと左翼革命運動を頑張っていれば……》という類の「もうちょっと史観」を批判していたからね 笑
— nāgita #antifa (@naagita) August 15, 2015
追伸2:安倍首相の戦後70年談話への「反応」をめぐる問題については、社虫太郎先生の以下のツイートにぶら下がってるコメントを読んでいただくと、いろいろな問題点が浮き彫りになるのではないかと思います。
【戦後70年談話】首相談話全文 - 産経ニュース http://t.co/kPsSk8OQ0u なるほどねえ。全文読むとそれはそれで一貫してる。 まさにこれが公式「長州史観」ってことなんだろうなぁ。
— 社虫太郎 (@kabutoyama_taro) 2015, 8月 14
~生きとし生けるものが幸せでありますように~