野火/ルック・オブ・サイレンス

最近観た映画のことなど。

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横浜ジャック&ベティ塚本晋也監督『野火』を観た。思い出すたびに目の奥の方でジワっと滲む「やめてくれ」と叫びたくなる涙と、飲み込みきれないままの「猿の肉」が喉の奥に引っかかっているような嫌な感覚をしっかり持ち帰ってきた。監督の狙いどおりだな。

すでに常識だが、先の大戦における日本軍の戦死者は、大半が餓死だった。しかしなんだな、日本はアジア太平洋地域への食料現地調達という無道な侵略を行い、現地の人々に多大な迷惑をかけたわけだが、同時に『野火』で描かれたような飢餓地獄を自国兵士に味わわせた。空襲下の避難を禁じ、情報統制によって焼夷弾地獄を自国の民間人にも強いた。

いわば、自国民向けのアウシュビッツをせっせと、敵さんの力も借りつつ建設し続けたのが、大日本帝国という政体だったのだ。なぜこんな事が起きたのだろうか? なぜこんな事が起きたのだろうか?

 

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同じく横浜ジャック&ベティで『ルック・オブ・サイレンス』ジョシュア・オッペンハイマー監督,をようやく観た。インドネシアで1965年に起きた大虐殺事件をテーマにしたドキュメンタリー作品だ。

前作『アクト・オブ・キリング』ほどのカタルシスは無いけれど、抑制気味にインタビューを行なうアディ(被害者遺族)にとって、相手は文字どおりの隣人なのだという距離感を想起すると背中に冷たい汗が流れる。

アディの兄を含む無実の民に「共産主義者」というレッテルを貼って大量虐殺した"隣人"たちはインドネシアの英雄として出世し、いまも権力を握っている。裁くのは神の仕事と自らに言い聞かせて、虐殺の被害者たちは社会の片隅に息を潜めている。

「汝の隣人を愛せ」というクリシェが、戦慄すべき宗教的命題(無理難題)としてせり上がってくる異様な映像空間。前作と併せて必見!

 ……ところで、横浜ジャック&ベティのある黄金町界隈は面白いね。特に横浜橋通商店街の雰囲気は、那覇の市場みたいなゆるいアジアの空気感が漂っていて最高だった。これからも通いたいと思います。

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~生きとし生けるものが幸せでありますように~