読書メモ 諸星大二郎「闇の客人」、比嘉慂『美童物語』、渡辺京二『日本近世の起源』他

 
Twitterから、読んだ(読んでる)本のメモを抜き出してみました。
 

捨聖 一遍 (歴史文化ライブラリー)

捨聖 一遍 (歴史文化ライブラリー)

今井雅晴『捨聖 一遍』吉川弘文館 歴史文化ライブラリー61 読了。一遍は資料が少ないからどれ読んでも新味は薄い。それにしても口称念仏は日本古来の神祇信仰の流れ云々とさらっと言っちゃう中世史家のセンスは如何なものか。じゃぁ中国でも散々やってる口称念仏は何なのよ?
 
空也上人がいた (朝日新聞出版特別書き下ろし作品)

空也上人がいた (朝日新聞出版特別書き下ろし作品)

山田太一空也上人がいた』朝日新聞出版、読了。六波羅蜜寺の収蔵庫であれ試す人増えそうだなぁ。文章は上手でさすが読ませるけど、超年の差カップルをなんとかしちゃうパターンは、いかにも「NHKのドラマ」になりそうな感じ。仏像をアレして鑑賞するってのは、みうらじゅんの発案(というか流儀)だよね。そういう意味では、山田太一空也上人がいた』も『見仏記』の影響下の作品といっても過言ではない。サブカル仏教恐るべし!
 
トラウマ映画館

トラウマ映画館

町山智浩『トラウマ映画館 MY TRAUMATIC MOVIE THEATRE』集英社、読了。これは衝撃のスゴ本。「とにかく読め」とバカみたいに叫びたい。
 
困ってるひと

困ってるひと

大野更紗『困ってる人』ポプラ社、読了。戦闘"難"少女戦記物とゆー新たな文学の始まりかも。更紗さんが闘ってる巨大な「モンスター」をハムスターに変えるため、僕らに何ができるかな? そんなこと考えつつ、ぱたーり。
 
砂の剣(すなのつるぎ)

砂の剣(すなのつるぎ)

マブイ

マブイ

比嘉慂『砂の剣 初期作品集』『マブイ 未収録作品集』青林工藝舎、読了。前者は著者の両親の体験談を含む沖縄戦もの。後者はユタの安里さんを媒介にした現代劇。剥き出しの暴力装置(米軍基地)と向き合いながら、先祖の御魂を近くに感じて暮らす沖縄の空気が、素朴な絵柄から漂ってくる。
 
不破哲三『「科学の目」で原発災害を考える』日本共産党中央委員会出版局、読了。不破さんの講演録だが、日本の原子力政策の「そもそもの」問題に遡って、自らの国会質問を振り返りながら明快に問題点を洗い出している。政党パンフらしく「共産党は最初から正しかった」という宣伝も忘れない良著w
 
魯迅の言葉

魯迅の言葉

魯迅の言葉』訳・中村愿/平凡社 http://t.co/9wBwafe ぜんぜん話題になってないみたいだけど、これはいい本だ。中国語(簡体字)と日本語の対訳語録。パラパラ眺めているうち、腹の底に闘志が燃えてきた。四十路を前に、漏れもようやく魯迅の良さがわかるようになったか。
 
妖怪ハンター 地の巻 (集英社文庫)

妖怪ハンター 地の巻 (集英社文庫)

諸星大二郎「闇の客人」は日本の原発問題の寓話としても読めるかもしれない。「貧しさ」に根ざした日本の宗教・信仰の伝統は、原発の放射能という「鬼」の跳梁を許してしまった現代と地続きではないか。鬼踊りしても、放射能は去ってくれないのだが。 http://t.co/cFZQYWs
 
貧しさを逃れるため、除災招福のため、異界から幸神を招く祭りが行われる。しかし人間に異界からの客人をコントロールすることはできない。禍神を呼び寄せてしまうこともある。この短編マンガには、古代の共同体で行われた神祭りから貧しい地方への原子力発電所の招来にまで至る、
 
この国の哀しい「信仰」の姿が描かれているように思えた。一度は村を捨て都会の片隅で暮らしていた古老のはたらきによって禍津神・鬼神は異界へと帰ってゆく。しかし現代に招き入れた放射能という「鬼」を、異界に送り返す「鬼踊り」の振り付けを私たちは誰も知らない。
 
というわけで、「おらといっしょに ぱらいそさ いくだ!!」(与謝野馨は「鬼踊り」して原発を異界に連れかえってくれ。)
 
渡辺京二傑作選? 日本近世の起源 (新書y)

渡辺京二傑作選? 日本近世の起源 (新書y)

渡辺京二傑作選1『日本近世の起源 戦国乱世から徳川の平和へ』洋泉社新書y 読んでる。これは面白いな。8章「一向一揆の虚実」では神田千里氏の研究を援用していた。
 
戦国時代って要するに、いまのアフリカの紛争地帯みたいな状態だった。戦国武将もその領民も、他領を徹底的に略奪して、同胞を奴隷にして外国に売り飛ばしていた。「軍神」上杉謙信も占領地で奴隷売買の市を開いてた。
 
「奴隷」という単語はアメリカの黒人奴隷を想起するが、歴史的には「数ある隷属形式」の一つだった。しかし南蛮船で売られた日本人奴隷は、アフリカから狩られた奴隷と同じく船底に詰め込まれ、多くは輸送中に息絶えた。
 
飢餓線上の荒廃しきった社会に、武器だけはふんだんに流通している。現代のアフリカ紛争地域やアフガンは、まさに日本の戦国時代と同じだ。権力の保護を受けられない地域社会の民衆が、生活防衛のため苛烈な自検断を行っているのもそっくり。彼らもまた、違う形の「徳川の平和」に到達するだろうか。
 
第四章「山論・水論の界域」は入山権や水利権をめぐって、村々の間で行われた「隣村戦争」の考察。ちなみに村同士の戦争(械闘)は、現代中国でも行われているらしい。 http://t.co/IKoTGFA
 
隣村戦争。タイムスクープハンターで「石つぶて 紛争調停人」では室町時代の事例が放映された。 http://t.co/jaA0XUX 戦国期にはミニ国家同士の「戦争」にエスカレート!
 
著者は室町〜戦国期の惣村同士の大規模な戦争を支えた「村のために命を投げ出す」心性は、「お国のために死んでこい」と戦場に子供たちを送り出した近代日本の国民の心性と地続きだと指摘する。
 
村のため戦死した者の家族は惣村共同体により保護された。寄り合いにも出られない乞食など身分の低い者や流れ者は、紛争和解のために敵村に差し出される「解死人」要員(生贄)として村に「飼われて」いた。
 
解死人として敵村に差し出された乞食が、その代償として自分の子孫を「村の年老(おとな)に列してほしい」と頼み認められたケースも。近代国家って大層なものと思っていたが、ただの村社会の拡大版じゃん!
 
めんどくさいことをどこにおっつけるか、規模が大きいか小さいかだけの差しかない、いまもむかしも人間の考えること・やることはまったく進歩してない。と知ってがっかりしたような、安心したような。
 
渡辺京二、しばらく浴びるように読もうかな。
 
妖怪HUNTER (BUNCH COMICS)

妖怪HUNTER (BUNCH COMICS)

原作・諸星大二郎/漫画・井上淳哉『妖怪HUNTER 闇の客人』新潮社、読了。諸星の同名短編を原作に、中編にリメイクした。「闇の客人」は福島原発事故の寓話としても読める深い作品。井上版はディテールが細かくなった分、混沌感は薄れたが、一つの解釈として充分にありだろう。シリーズ化期待!
 
原発の深い闇 (別冊宝島) (別冊宝島 1796 ノンフィクション)

原発の深い闇 (別冊宝島) (別冊宝島 1796 ノンフィクション)

『別冊宝島1796 原発の深い闇 東電・政治家・官僚・学者・マスコミ・文化人の大罪』読了。圧倒的な迫力のムック本。福島産の被曝食品が産地偽装され、すでに大量に市場に出回っているなど、衝撃の事実が明かされる。厳しい現実を直視する勇気をもって、一人でも多くの人に読んでほしい。
 
PART2御用メディア&文化人の罪 によれば、雑誌の電力系PR広告出稿ランキング1位はダントツ『ソトコト』(エコ&ロハス系)であり、2位は保守右翼系の『WILL』、3位〜5位は僅差で『潮』(創価学会系)と『週刊新潮』『婦人公論』が並んでいる。
 
22p- 福島原発事故の被災民が、放射能汚染されたタケノコやイチゴを産地偽装して転売していたことが、地元在住のジャーナリストによって告発されている。6月28日に気仙沼港に水揚げされた350トンのカツオもいわき市沖、事故原発の沖合で捕獲された。
 
22p- 中通りのある野菜農家は「例年どおり県内、県外に出荷するが、自家消費用は作付けしない」と。土壌サンプリング調査もほとんど行われぬまま、稲の作付けが行われている。秋にはラベルを張り替えた放射能汚染米が日本じゅうにばら撒かれるだろう。
 
まえがきの下に、「*小社は東京電力および電気事業連合会に広告スペース等を販売したことはありません」と明記してある。かっこいい!
 
美童物語 (モーニングKC)

美童物語 (モーニングKC)

美童物語(2) (モーニングKC)

美童物語(2) (モーニングKC)

比嘉慂『美童物語』1,2 講談社、読了。ノロの家系に生まれた霊感豊かな少女カマルの眼差しを通して、泥沼化する日中戦争が影を落とす昭和前期の沖縄に生きた人々の魂が描かれる。これは本当にすごい作品。特に2巻の「糸満売り」「ユタ」「世を捨てよ」の流れは圧倒的。続編が読みたい。
 
維新の夢 渡辺京二コレクション[1] 史論 (ちくま学芸文庫)

維新の夢 渡辺京二コレクション[1] 史論 (ちくま学芸文庫)

民衆という幻像: 渡辺京二コレクション2 民衆論 (渡辺京二コレクション(全2巻))

民衆という幻像: 渡辺京二コレクション2 民衆論 (渡辺京二コレクション(全2巻))

渡辺京二コレクション 1史論『維新の夢』2民衆論『民衆という幻想』ちくま学芸新書、少しずつ読んでる。70年代の論考は流石に古いと思ったが、イリイチの晩年の著作の解説など、得心するものがあった。きょうびこれだけ粘り腰の日本語を書ける人も少ないだろう。
 
聖書を語る―宗教は震災後の日本を救えるか

聖書を語る―宗教は震災後の日本を救えるか

中村うさぎ佐藤優『聖書を語る 宗教は震災後の日本を救えるか』文藝春秋、読了。雑談集。あんまり聖書を語ってない。二人は同志社の先輩後輩だそうな。中村氏の『1Q84』批判はまっとうかつ容赦なくて面白かった。ツッコミ入れられる佐藤氏も楽しそう。けっこういいコンビかもね。
 
渡辺京二傑作選? 日本近世の起源 (新書y)

渡辺京二傑作選? 日本近世の起源 (新書y)

渡辺京二傑作選1 日本近世の起源 戦国乱世から徳川の平和へ (洋泉社新書y) http://t.co/YeSXjIl ようやく読了。日本をどう捉えるかという存在不安にかられた知識人の「自己証明的強迫観念」から解き放たれた歴史記述の試み。最近の新書に稀な密度濃度に圧倒された。
 
日本の1/2革命 (集英社新書)

日本の1/2革命 (集英社新書)

池上彰佐藤賢一『日本の1/2革命』集英社文庫、読了。歴史雑学四方山話。佐藤賢一氏の『小説フランス革命』そのうち通読してみたい。
 
以上、6月末から7月末まで。比嘉慂渡辺京二との出会いが大きかった。
 
〜生きとし生けるものが幸せでありますように〜