ケセン語新約聖書の関連書など

最近、ちょっとイエス(キリストと言われるようになった男)に関する本を何冊か読んで、たいへん面白く感じるものがちらほらあった。

ナザレ派のイエス

ナザレ派のイエス

増補版が出たばかりの前島誠『ナザレ派のイエス』(春秋社)はヘブライ語聖書研究の第一人者がユダヤ宗教思想の文脈でイエスの言説を読み解いた異色作。ヘブライ語に関するうんちくを通して、イエスの言葉の「真意」が謎解きされていく様はぞくぞくするほど面白い。後述の山浦玄嗣氏も、本書から大きな影響を受けている。

ふるさとのイエス

ふるさとのイエス

走れ、イエス![DVD]―続・ふるさとのイエス

走れ、イエス![DVD]―続・ふるさとのイエス

人の子、イエス―ケセン語訳聖書から見えてきたもの 続々・ふるさとのイエス

人の子、イエス―ケセン語訳聖書から見えてきたもの 続々・ふるさとのイエス

そして、『ふるさとのイエス』『人の子、イエス』『走れ、イエス!』は、ギリシャ語聖書の福音書を宮城の気仙沼地方の方言「ケセン語」に訳した山浦玄嗣氏による「イエス」考三部作である。どれも読者の予測が斜め上を行く展開で裏切られる、たいへんスリリングな内容。


前島氏も山浦氏も、生れながらのカトリック信者で、熱烈にイエスを慕っている御仁なのだ。そしてお二人とも、それぞれのアプローチでイエスその人の言葉に肉薄しようとすればするほど「キリスト教」からはどんどん離れていくのが面白い。言い尽されてきたことだが、「イエス」というなかなか魅力的な人物と、彼を神の子と崇めるキリスト教の教理とは、ほとんど関係がないということなのだ。


特にギリシャ語聖書から日本の地方言語への直訳、という驚天動地の偉業(まんずケセン語の辞書と文法書を作成するところからはじめた)を成し遂げた山浦氏の著作が放つ迫力はものすごい。その著書は、宮城県の地方小出版(イーピックス出版)でしか手に入らないこともあって知名度は低いが、現代日本に住んでいて、人文書が好きで、山浦氏の仕事を知らずに死ぬのは本当にもったいないと思う。


原典に即した「キリスト教」批判にとどまらず、特殊な漢語に頼ることで日常語(セケン語)と向き合う回路を閉ざしてきた、従来の日本の翻訳文化(特に聖典翻訳)に対する根源的な問いかけを含んだ仕事なので、なんとかもっと多くの人々に読んでほしいものだ。いちばんお勧めの、山浦氏が『ヨハネの福音書』を全訳し終えた勢いで書きあげたハイテンションぶりがぞくぞくする『走れ、イエス』は残念ながら電子ブック版しか出ていないが、三部作のどれからでも、騙されたと思って読んでみてほしい。とりあえず、パーリ経典など仏典の日本語訳を試みている人なんかは、山浦氏の本にふれて、一度、真剣に悩んだ方がいいぞ。


で、猛者はぜひ、山浦氏の「ケセン語訳」新約聖書四部作にも挑むべし。ブログ「さわりで読む『ケセン語訳聖書』」でも、その世界の一端に触れることができる。奇特な図書館には蔵書に入っていると思うが、各巻付録のケセン語訳聖書朗読CDもこれまた絶品で、山浦氏のグルーブ感あふれる方言朗読は、声フェチには必聴ものだと思う。

ケセン語訳新約聖書 〔1〕マタイによる福音書

ケセン語訳新約聖書 〔1〕マタイによる福音書

ケセン語訳新約聖書 〔2〕マルコによる福音書

ケセン語訳新約聖書 〔2〕マルコによる福音書

ケセン語訳新約聖書 〔3〕ルカによる福音書

ケセン語訳新約聖書 〔3〕ルカによる福音書

ケセン語訳新約聖書 〔4〕ヨハネによる福音書

ケセン語訳新約聖書 〔4〕ヨハネによる福音書

ケセン語の世界

ケセン語の世界

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