備忘『戦国仏教』『歴史と牢獄』『地蔵十輪経』など

最近読んだ本のメモ。

戦国仏教―中世社会と日蓮宗 (中公新書)

戦国仏教―中世社会と日蓮宗 (中公新書)

湯浅治久『戦国仏教―中世社会と日蓮宗』(中公新書)
黒田俊雄の顕密体制論によって批判された鎌倉新仏教に替わる概念として一部で提唱されている「戦国仏教」の成立過程を立宗開教からの日蓮宗の動静を下克上の激しい中世〜近世の政治(地域)社会史に組み込みながら辿った地味かつ壮大な新書。文中に挿入された日蓮の肖像画が、花輪和一の描く中世の東国人そのもの。「一揆」という概念と仏教との深いつながりについて考えさせられた。


熊野宏昭『二十一世紀の自分探しプロジェクト―キャラの檻から出て、街に出かけよう』(サンガ新書)
サンガより献本御礼。日本における認知行動療法の第一人者による「脱自分探し」→「自分なくし」のススメ。タイトルひねり過ぎでよく分かんなくなっている嫌いもあるが、なかなかの良著だと思った。スマナサーラ長老の著書からもずいぶん引用されており、「気づき」の実践で自我のこわばりを乗り越える処方箋が淡々と平易な言葉で語られる。言語と自我について生命という目線で哲学した本でもある。巻頭と巻末で語られるインコの話は鳥好きだったら号泣必至。著者の深い慈しみの気持ちが伝わってきた。大きめの活字のゆったりした文字組も、疲れ目にはちょうどよかった。


気づきの投資術―投資心理のメカニズムを知りマーケットに勝つ究極の智慧

気づきの投資術―投資心理のメカニズムを知りマーケットに勝つ究極の智慧

新田ヒカル『気づきの投資術―投資心理のメカニズムを知りマーケットに勝つ究極の智慧』(サンガ)
サンガより献本御礼。小飼弾氏の帯文章「投資の神はいないが、誰でも投資の仏になれる――かも知れない」が秀逸。要約すると「投資は目的ではなく、自分らしく生きるライフデザインを実現する手段です。どんなに頑張っても半分は運だから、一喜一憂せずに冷静に取り組みましょう。そのために「気づき(サティ)」の実践で貪瞋痴を抑えるといいですよ」ということ。まぁ、投資に限らず、人生ってそういうものかもしれないね。どういう理屈か解らないが、最低三回読むと「投資の思考力」が身に付くように仕掛けがしてあるそうだ。30分もあれば通読できる分量なので、ご利益を信じて三回読むのも悪くないかもしれない。


小飼弾の 「仕組み」進化論

小飼弾の 「仕組み」進化論

小飼弾小飼弾の「仕組み」進化論』(日本実業出版社)
スマナサーラ長老の『仏教は心の科学asin:4796664289』が引用されていた。「そこ使うかい(笑)」という感じだが、小飼氏らしくて面白かった。


妖霊星―身毒丸の物語

妖霊星―身毒丸の物語

近藤ようこ『妖霊星―身毒丸の物語』青林工芸舎
よく知られた説経を下敷きにしているせいか、他の作品よりも強く、90年代の心性の匂いが薫っている気がする。


聖☆おにいさん(3) (モーニングKC)

聖☆おにいさん(3) (モーニングKC)

中村光『聖☆おにいさん (3)』(講談社モーニングKC)
立川で同棲するイエスと釈迦の日常を低め安定の和みギャグで描く。ちょっとずつネタがマニアックになっているような、いないような……。天使軍団や梵天など新キャラも登場する。


塩崎雪生『新国訳大蔵経 インド撰述部〈11〉諸経部(2)地蔵十輪経』

「大乗」という名の仏教溶解運動の行く末に凶々しくも破廉恥に咲き誇った腐爛の徒花−。大乗の三宝至上主義にあふれた「地蔵十輪経」の訓読を註記を付して収録。解題も掲載する。

という紹介文にギョッとなり(腐爛の徒花って一体……)、書店で手にとってさらにギョギョッとなった。本書の「解題」は、仏教を名乗りながらその実「仏教溶解運動」に他ならなかったという大乗仏教への、ひいては大乗仏教の腐臭が染み付いた?日本社会への、禍々しいまでの呪詛と告発の言葉に満ちている。「わーい、お地蔵さんのお経だぁ」と思って買っちゃった人はうなされるね、確実に。朝日新聞の連載仏教コラムで全国にヘタレぶりを曝した佐々木閑氏に対しては特に厳しく、猛烈な勢いで「筆誅」を加えている。これは天下の奇書だと思うので、マニアは在庫が無くならないうちに買うべし??? 参考サイト:塩崎研究所(著者ブログ)


彌永信美『歴史と牢獄 ものたちの空間へ』(青土社,1988)
絶版本。

↑こちらの記事を読んで他区の図書館から取り寄せてもらった。アマゾンではDBにも入っていない絶版本だが、同書の「日本の「思想」とキリシタン」では、ハビアンを引用しつつ、キリシタン伝来を触媒として形成された「日本教」の思想について、西欧の宗教史とリンクさせたスケールの大きな論考がなされている。釈徹宗不干斎ハビアン―神も仏も棄てた宗教者 (新潮選書)』に感じていた食い足りなさを見事に埋めてくれた。龍樹『中論』における「八不中道」について、独特のアプローチをした「バイヨと八不中道とばななうお 日常性の向う側」もたいへん面白く、もう少し一般向けのフォーマットに落とし込んだ彼の仏教思想論を読んでみたいと思った。彌永氏の師匠に当たる秋山さと子氏の再評価も、そろそろ必要ではなかろうか。復刊ドットコムにエントリしておいたので、ぜひ投票をお願いします。


人生問答〈下〉 (聖教文庫)

人生問答〈下〉 (聖教文庫)

松下幸之助, 池田大作『人生問答』(上下 潮出版社)

↑を読んで、どんなものかと思って借りてみたのだが……微妙。1970年代半ばに、日本の経済界と宗教界を代表する二人が150ずつの質問を投げかけあった往復問答集。ただ「ご質問の○○についてはよく存じ上げませんが」というふうに始まる文章がずいぶん多くて、そういうのを飛ばしていくと読むところはあまりなかった。(池田大作ではなく、)松下幸之助が中国の文化大革命にずいぶん好意的だったとは意外。こういう企画が『週刊朝日』に連載されていたとは知らなかった。巷間の創価学会本にも、そんなこと書いてあったっけ? 創価学会とメディアの関係については、雑音を排して冷静に近過去を振り返ってみる必要があるなと思った。


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