オバマ大統領の妹は仏教徒?
前のエントリで紹介したアメリカの宗教系サイトbeliefnetでの、オバマ「仏教パッシング」に関する記事。コメント欄が面白い。
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No-ism
January 29, 2009 8:11 PM
Tumarion,You said: "The Hindu view of the Buddha as an incarnation of Vishnu is at best a back-handed compliment. Vishnu is said to have incarnated as Gautama Buddha to spread false doctrine in order to confound demons."
Hindus don't have a concept of false doctrine. There are multiple paths to the truth. The Vaishnavas included Buddha as one among their 10 avatars, because he is genuinely believed to be a great soul. The Buddha's teachings are in perfect harmony with most Hindu traditions.
You are right that Obama's sister consider's herself Buddhist and so Obama is very aware of Buddhist practices to know that calling the Buddha's teachings a religion is a misnomer. For that matter, calling the Hindu traditions a religion is also a misnomer, but perhaps he included it as a gesture towards some of his Hindu fund-raisers!
要旨は以下のような感じだろうか?
あなた、「ヒンドゥー教徒のブッダ観は“ヴィシュヌの化身”としての意地悪な讃辞でしかない。ヴィシュヌは悪霊(無神論者)を混乱させる目的で虚偽の教義を広げるためにゴータマ・ブッダとして受肉したと謂われている。」とか言っていますね。
ヒンドゥー教には、虚偽の教義なんてゆー概念はありまっせん。真理に至るには多様な道があるんです。 (ヒンドゥー教徒の間で)ブッダが大偉人であるとマジに信じられているので、ヴィシュヌ派では10のヴュシュヌ神の化身の一人に含めているんです。 ブッダの教えはヒンドゥー教の伝統とほとんど完璧に調和しているんです。
そうです、オバマの妹は自分を仏教徒と見なしていますし、オバマも仏教の教義からすると「ブッダの教え」を(排他的な教義を持つ)「宗教」と呼ぶのは相応しくないと、よく知っているんです。さらに言うと、ヒンドゥー教の伝統を「宗教」と呼ぶのも間違ってますけど、恐らくいくつかのヒンドゥー教徒(の支援者)向け資金集めパーティをにらんだ宣伝として入れたんでしょうYO!
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まぁ、典型的なヒンドゥー教徒から見た仏教観(それはヒンドゥー化した日本大乗仏教徒の仏教観とも親和性が高いんだが)だ。こーゆー何でも一緒にするヒンドゥー脳に取り込まれて、仏教はインドで溶けちゃったんだよな。しかし、オバマ氏の妹が仏教徒というのは興味深い話だ。
あ、スリランカの新聞(The Sundaytimes Onlene)にオバマ氏の妹、Maya Soetoro-Ngさんのインタビュー記事(NYTからの配信記事)が出てる。彼女はオバマ氏より9歳年下で、父親が違う(インドネシア人)。
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Maya Soetoro-Ngさんによれば、二人の母親は、atheist(無神論者)と言うよりはむしろ、人類の精神的伝統をひとしく尊重する立場を貫くagnostic(不可知論者)であったという。二人はコーランの詠唱が聞こえてくる環境のなかで、文化人類学の博士号を持つ母親から、聖書・仏教経典・道徳経(老子)などの聖典を与えられて育ったのである。
Maya Soetoro-Ngさんは、自身の信仰について訊かれて曰く、
What religion are you?
Philosophically, I would say that I am Buddhist.
あなたの宗教は何ですか?
哲学的に、「私は仏教徒です」と言えるでしょう。
こういう答え方って、non-believersとしての仏教徒、とゆーニュアンスに近いのだろうか?
オバマ兄妹の母アン・ダナムについては、以下のブログ記事に詳しい。
またまた追記するが、東京財団:現代アメリカ研究プロジェクトのニュースレター
- アメリカNOW第34号 バラク・オバマ大統領就任演説(2)演説をとりまく舞台装置と「責任の時代」への招待(2009年1月30日 渡辺将人)
で、オバマ就任演説における「仏教パッシング」の文脈について詳細な解説が載っている。
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【オバマ演説の隠れた凄さ―新たな宗教文化の意識】
さて、就任演説の隠れた注目点はオバマのアメリカの多様性とリンクさせた新しい宗教観だった。他の注目ポイントの間に隠れて、あまり大きく話題とはならなかったが以下のくだりの意義は大きい。「我々の継ぎ接ぎ細工の遺産は、強さであり弱さではない。我々は、キリスト教徒やイスラム教徒、ユダヤ教徒、ヒンズー教徒、そして、そうした神を信じない人による国家だ。我々は、あらゆる言語や文化で形作られ、地球の各地から集まってきている。For we know that our patchwork heritage is a strength, not a weakness. We are a nation of Christians and Muslims, Jews and Hindus - and non-believers. We are shaped by every language and culture, drawn from every end of this Earth」
USA TODAYのキャシー・リン・グロスマンが指摘しているように(1/20/2009)、アメリカ大統領が就任演説のような公共性の高い場で、non-believersに明示的に言及したのは、初めてのことだ。ピューリタンが建国したキリスト教中心の伝統を持つアメリカでは「市民宗教」という概念で、聖書による宣誓も神への言及も自然なものとして受け止められてきた。しかし、信心深い人々とは別に存在する世俗性の高い人々は、大統領の公的な発言の次元内では、存在するが存在していないような存在、として扱われてきたことも事実だった。
オバマのnon-believersへの言及は、世俗性も含めた上でのアメリカの宗教観の多様性を「公」に認める発言である。アフリカ系には信心深い人たちが多いこともあってか、報道ベースでは広まらなかったのだが、西海岸やマンハッタン、シカゴなどの世俗派の政治関係者の知人からの筆者への「反応」は早かった。「世俗派を認めてくれた。すべてのアメリカ人がボーンアゲイン福音派ではない。しかも就任演説で語った。この人は本当にすごい大統領だ。涙が出た。また歴史を作った」という好反応ばかりだった。
もちろん、これに付随して各宗教から「どうしてうちの宗教を入れてくれなかったのか」という疑問も当然あるだろう。仏教が入っていないことへの指摘もある。しかし、これについては二つの点を考慮すべきだろう。一つは、これは宗教人口統計学に基づく演説ではないことである。必ずしも、アメリカの宗教別人口比率に沿って均等に発言することは目的ではない。よりシンボリックなメッセージとしての意義なり力点がある。
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【「神を信じない人も」―多様性のアメリカの強さ】
第二に、non-believersをどう理解するかだ。前出シンクタンク研究員は「英語でこの文脈でいうnon-believersというのは、ユダヤ、キリスト、イスラム的な<ゴッド>を信仰しない人という意味であり、何にも信仰をまったく持たない無宗教者という意味ではない。不可知論者でもなければ、神学としての無神論者とも少し違う」と語るが、これは筆者も同感だ。従って(ユダヤ・キリスト的な)「神を信じない人」という訳が、意味的には妥当だと考える。しかし、読者にわかりやすいように「無神論者」と訳すことも、報道においては決して誤訳ではないだろう。ただ、「無宗教者」とすれば意味的には誤訳の範囲に入ってくるかもしれない。仏教徒は、ある意味では「神を信じない人」に入るからだ。「キリスト教的な神」を信仰しない宗教信仰者だ。このように、本問題で気をつけておきたいのは、狭い意味での「神」を信じることを「宗教行為」だと分類するとすれば、仏教をそうした狭い意味での「宗教」と捉えない見方もアメリカにはあり、そのために無意識のうちに些細な誤解が相互に生まれることだ。仏教が入ってないことが「軽視」ではないことを理解するには、二段構えの解釈が求められよう。実際「ニューエイジ」の延長として、キリスト教的世界観とは違う生き様を「哲学」として求め、その一環として仏教に真摯に興味を持つアメリカ人は少なくなく(ヨガやベジタリアンのようなものに興味を持つことも広い意味では同じ系譜にある)、日本での葬儀から何から習慣に根付く仏教観とは「入り口」で異なる部分もある。
仏教が明示されなかったことの問題提起は大いに共有できるものの、キリスト教社会としての建前があるアメリカで、オバマが「神を信じない人(別の何かの信仰、哲学、無信仰を実践している人)」としてのnon-believersに、就任演説という最も公式の場で明示的に言及したことはきわめて画期的であり、筆者はむしろここに注目することで、オバマ演説を大いに評価したい。アメリカの政治と宗教において興味深い、そしてオバマのような多様性そのものを体現する大統領にこそ可能だった一里塚といえる。
現代アメリカ選挙の集票過程 アウトリーチ戦略と政治意識の変容
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太字は引用者。なるほど、かなり納得した。やはり専門家は大したものだ。
渡辺将人氏の本、読んでみることにする。