オバマ就任演説の「仏教パッシング」について再び(追記あり)

昨日書いた、アメリカ下院の仏教徒議員(オバマ就任演説における「仏教スルー」を嘆く)に関して、けっこう反響をいただいた。……というより、id:antonianさんとid:Brittyさんの以下の記事のおかげでアクセスが伸びたようである。

両エントリへのブックマーク・コメントも、件のオバマ発言に関するさまざまな受け取り方を垣間見られて面白い。

他のブロガーの記事でも昨日の記事が言及されている。

こういう扱いになっているのは、アメリカで仏教徒の数が少ないというのもあるけど、アメリカ人にとって仏教はここで挙げられている一神教や多神教の宗教とは違い、哲学に近いものとして受けとめられているからではないだろうか。

実際、ドーキンスは神は妄想である―宗教との決別の中でそう書いている(だから仏教は彼の攻撃の対象にはなっていない)。

そもそも初期の仏教では

  • (人間社会に介入する)神など存在しない
  • ものごとには必ず(神以外の)原因があり、それは人間の行動により変えることができる

と教えていたはずなので、その点で仏教は無神論の一種とみなすことができる。

つまり、このオバマの演説では仏教徒は"non-believers"の中に含まれていると考えられる。ちなみにこれを「無信仰者」と訳すのは不適切で、これは「神の存在を信じない人達」とすべきだろう。

神は妄想である―宗教との決別

神は妄想である―宗教との決別

スピーチの内容を改めて見てみると、スルーじゃなくて、「まとめ」られたと見なすべきだと思ったので。

non-believers に仏教徒を含めたのではないかというのが私の見方。

なるほど、とちょっと納得しかける。もちろん、厳密には仏教で否定しているのは因縁説に反する創造神,絶対神である。生命の次元としての天・梵天は初期経典から認めている。ただ、人が「神を」礼拝するのではなく、「神が」目覚めた人(ブッダ)を礼拝するのだ。

死後はどうなるの?

死後はどうなるの?

まぁ、それは細かい話だとしても、やはり腑に落ちないところが残る。


私が書いた昨日のエントリのタイトルは、「アメリカ下院の仏教徒議員」である。オバマ云々は副題に留めた。

繰り返しになるが、ハワイ選出メイジー・ヒロノ議員(浄土真宗)とジョージア州選出ハンク・ジョンソン議員(創価学会インターナショナル)は、ともに2006年末の連邦議会選挙で初当選した「民主党」の下院議員だ。二人の当選は、同じ選挙で当選したミネソタ州選出ケイス・エリソン(Keith Ellison)が初のイスラム教徒議員となったことと並んで、アメリカ社会の宗教的多元性が進んだことの象徴として報じられた。


その報道は、当時、上院議員であったオバマ大統領も当然、知っていただろう。であるならばやはり、MuslimBuddhistというキーワードは、オバマ氏が就任演説で訴えた「我々の多彩な出自は、強みであって弱みではない」というメッセージのなかに、並んで用いられるべきだったのではないかと思うのだ。


うかつなことに昨日の記事を書いてから気づいたのだが、オバマ就任演説での「仏教パッシング」については、1月26日付けで産経新聞のHPに以下のコラムが掲載されていた。

佐藤優氏のラジオ番組での発言に触れたくだり。

 その佐藤氏が先日、ラジオ(ニッポン放送「上柳昌彦のお早うGoodDay!」)で、オバマ大統領の就任演説では、次の一節に注意すべきだと語っていた。

 「われわれはキリスト教徒、イスラム教徒、ユダヤ教徒ヒンズー教徒、そして無神論者の国だ」

 なんの変哲もない個所だが、「ヒンズー教徒」をさりげなく盛り込み、インドの顔を立てたというのだ。アフガニスタン作戦を成功させるには、インドの協力が不可欠だからで、「オバマは本気だ」と佐藤氏は言う。

 佐藤流をまねれば、このくだりで注目すべき点がもうひとつある。「仏教徒」がまったく無視されていることだ。

 まさか、聡明(そうめい)な大統領が、ヒンズー教と仏教は同じと認識しているわけではあるまい。それだけ米国では、仏教が控えめな存在なのだろうが、通夜や葬式で念仏を唱える程度の「仏教徒」の私でさえイヤな感じがしたほどだから、米国で布教に力を入れている仏教関係者のショックはいかばかりだろう(世俗のことだから気にしないのかもしれないが)。

 ここから先は、筆者の邪推であるが、米国内の仏教徒に目が向いていないように、仏教徒の多い日本にも大統領はあまり関心がないのではないか。

 大統領選中のスピーチでも、丈夫な枕になりそうな分厚い著書でも日本については、ほとんど触れていない。

拙著『大アジア思想活劇』でも紹介したが、仏教はアメリカ合衆国において、実に19世紀末から100年以上の伝道布教の歴史がある。なかでも日本仏教のアメリカ布教(当初は日系移民を主な対象として行われた)は、質量ともに群を抜いていた。

大アジア思想活劇―仏教が結んだ、もうひとつの近代史

大アジア思想活劇―仏教が結んだ、もうひとつの近代史

アメリカ連邦議会の下院に、二人の仏教徒議員が誕生したことも、「大東亜戦争」期の中断をはさんだ、長年にわたる日本仏教徒の地道な布教伝道の賜物と言えるのだ。乾氏は「邪推」をあれこれする前に、そういう歴史を踏まえ、ファクトに基づいてオバマ就任演説の瑕疵を論じて欲しかったと思う。

また、拙ブログの記事の以前にも、以下のページでオバマ就任演説と仏教スルーについて言及されていた。

あと、アメリカの宗教系サイトでも多少は話題になっているようだ。

オバマ就任演説と仏教スルーの件、もうすぐヒラリーさんが来日するみたいなので、誰か質問してみてくれないかしら。


追記:この問題については、アメリカ現地で取材を続けている菅谷洋司氏写真の広場−グローバルフォトエクスチェンジ情報室の記事にも注目したい。

やはり、単に忘れたとかアジア軽視とかいうよりは、中国を意識したチベット問題への配慮の線が濃いのではないか、という推測になっている。続報まだ〜?

オバマ自身がまだ演説そのものについて言及していないので、少年探偵団のように数少ない事実から推理していくしかない。
メインストリームメディアが早く、記者会見で正してほしいと思う。

もっともだ。まさかヒロノ議員とジョンソン議員が念仏と法華の宗論はじめて収集がつかなくなった、なんてことはないだろうしね(笑)。

※あらためて詳しく検索してみたら「仏教(サタン)」呼ばわりしているゆんゆんクリスチャンのページなど引っかかって、どっと疲れた……。そういう類と一緒にされるくらいなら、無信仰の人たち(non-believers)でいいですよ、私も、はい。

あ、Yahoo!知恵袋にも……


追記:長くなりすぎたので、エントリを分けた。こちらもどうぞ。

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