アメリカ下院の仏教徒議員(オバマ就任演説における「仏教スルー」を嘆く)

辛口の政治評論家でさえ感嘆した。オバマ大統領が就任式で見せた、「宗教と政治」の料理の仕方はあまりにも鮮やかだった。

という書き出しで始まる石紀美子氏の記事、オバマの見事な宗教対策  JBpress(日本ビジネスプレス)が面白い。記事のポイントは、

 1月18日の記念イベントから20日の大統領就任式まで、以下の3人の宗教家が公式に祈りを捧げた。

リック・ウォーレン牧師(キリスト教福音派
ジーン・ロビンソン主教(米国聖公会
ジョセフ・ローリー牧師(統一メソジスト教会)

 非常に乱暴なくくり方をすると「極右」と「ゲイ」と「黒人」の宗教家が祈祷に選ばれたことになる。特にウォーレン牧師とロビンソン主教の人選は賛否両論で、大きな論争を巻き起こした。

この人選の妙についての解説にあるのだが、3ページ目において、オバマが就任式演説で仕掛けたサプライズ(アメリカ人にとっては)が明かされる。

 そして極めつけは、オバマ大統領自身の就任演説だった。彼は「この国は、クリスチャンとイスラム教徒、ユダヤ教徒ヒンズー教徒、そして無信仰の人たちで成り立っています」と述べた。

 これは米国人にとって、画期的な一文だった。これまで米国のリーダーが無信仰の人たちの存在を公に認めたことはなかった。無信仰の人たちは、無政府主義者や共産主義者と同様、危険で唾棄すべき存在とされてきた。この一文は、いかなる宗教も持たず、信じず、そのため社会から阻害されてきた人々から、賞賛と喝采の嵐を浴びることになった。

この演説、初めて聞いたときにも感じたのだが、やはりどうしてもモヤモヤした気持ちが残る。

「この国は、クリスチャンとイスラム教徒、ユダヤ教徒ヒンズー教徒、そして無信仰の人たちで成り立っています」

え?それだけ?


仏教徒は?


どうして、仏教徒だけスルーなの?


仏教なんか、アメリカでは取るに足らない存在だから?

21世紀に入り、アメリカ合衆国の仏教徒は、全人口(約2億8千万人)の2%近く(400-500万人)であると推定され、アメリカ社会の中に確実に根をおろしはじたといわれている。*1

というのに?

アメリカ連邦議会の下院には、現在、二人の仏教徒議員がいる。


メイジー・ヒロノ(Mazie Keiko Hirono)ハワイ選出。


ハンク・ジョンソン(Henry "Hank" Johnson, Jr. )ジョージア州選出。

Johnson was elected to the U.S. House in the November 7, 2006 general election. Johnson is―along with Mazie Hirono of Hawaii, also elected to Congress in 2006―one of the first two Buddhists in American history to serve in the United States Congress.

ともに2006年末の連邦議会選挙で初当選。アメリカ連邦議会史上初の、仏教徒議員となったのである。ヒロノ議員は福島出身で母親とともにハワイに移住。アメリカに帰化後も浄土真宗の信仰を保ち続けた。*2ジョンソン議員はSGI創価学会インターナショナルの会員である。

彼らはどんな思いで、オバマ大統領の演説を聞いただろうか……。


オバマさん、二人とも、民主党選出ですよ!仲間の宗旨くらい覚えといてくださいよ! 彼の寛容な宗教多元主義的な思想のルーツは仏教徒の多いハワイのはずなのに、無視するなんてひどいと思うぞ。


この時の連邦議会選挙では、初のイスラム教徒議員が誕生したことが日本でも話題になったが、同時に仏教徒も議員になったのである。しかも二人も!しかも二人とも日本大乗仏教の信徒!にも関わらず、この事実はほとんど報道されなかった。話題にされることもなかった。


日系人の多いハワイとはいえ、キリスト教社会(教会社会)のアメリカで、先祖から受け継いだ仏教信仰を捨てることなく、国会議員にまでのぼりつめたヒロノ議員。そして自ら日蓮仏教徒として生きる道を選び取り、菩薩道にまい進して多くの人々の信頼をかちとったジョンソン議員。


二人のサクセスストーリーは、日本仏教のアメリカ東漸の物語として、宗旨宗派を超えて、日本人全体で随喜をもって受け止めるべき慶事だったのではないか。


創価学会という特定団体の宣伝になってはまずいという余計な配慮のためか、単なるマスコミの宗教オンチのせいか、この快挙がG8唯一の「仏教国」日本(二人の奉じる宗派を生んだ国)で無視されたことが、オバマ就任演説時における「仏教パッシング」に繋がってしまったように思えてならない。


まことに残念だが、いまからでもこの事実を知る人が増えて欲しいと願う。

以下、参考サイト。

大アジア思想活劇―仏教が結んだ、もうひとつの近代史

大アジア思想活劇―仏教が結んだ、もうひとつの近代史

拙著『大アジア思想活劇 仏教が結んだもうひとつの仏教史』
19世紀末から二十世紀にかけてハワイ王家出身のメアリー・フォスター夫人は、アナガーリカ・ダルマパーラ居士による仏教の世界宣教をバックアップし、日系人の仏教寺院建立にも支援を惜しまなかった。オバマ大統領就任で大きな転機を迎えつつある環太平洋社会の近代史を、「仏教復興」という視点で捉えなおした歴史活劇。>>書評など詳細情報

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*1:[http://buddhism-orc.ryukoku.ac.jp/ja/annual_report_ja/annual_report_2002_220-228_ja.html:title=那須英勝「アメリカにおける仏教・浄土真宗の魅力」(CHSR)]

*2:She considers herself a non-practicing Jodo Shinshu Buddhist,っつー位のものだが……