仏説五蘊皆空経から連想ひとしきり(追記あり)
終日、パティパダー用原稿作成と読み合わせ。
最近読んだ仏教系ブログに面白い記事があったので、そこから連想ひとしきり。
今日読んでいて発見したのだが、阿含部の中に、「仏説五蘊皆空経」なる
短い経典があるのである。
大正新脩大蔵経 第二冊 阿含部 仏説五蘊皆空経 唐 義淨訳
http://www.cbeta.org/result/normal/T02/0102_001.htm
般若心経と同じ「受想行識。亦復如是。」の句を含んでいる。
トラバ&ブクマでお世話になっているtouryuuuanさんに教えていただいた漢訳経典「仏説五蘊皆空経」と「般若心経」の縁。同経はパーリ聖典(Anattalakkhana sutta無我相経)とほぼ対応する由緒正しい初期経典である。こちらにも、「原型可能是在分裂為南北兩傳以前所成立」とある。義淨のことだから、原本はもろパーリ語ではなかろうか。内容はというと、釈尊が鹿野苑で最初の説法(初転法輪)をした後、一気に五人とも悟りに導いたという最初期の迫力ある法門だ。
大唐三藏法師義淨奉 制譯
如是我聞。一時薄伽梵。
在婆羅[病-丙+尼]斯仙人墮處施鹿林中。爾時世尊。告五苾芻曰。
汝等當知。色不是我。若是我者。
色不應病及受苦惱。我欲如是色。我不欲如是色。
既不如是。隨情所欲。是故當知。色不是我。
受想行識。亦復如是。復次苾芻。於汝意云何。
色為是常為是無常。白言大徳。色是無常。
佛言。色既無常。此即是苦。或苦苦。壞苦。
行苦。然我聲聞。多聞弟子。執有我不。
色即是我。我有諸色。色屬於我。我在色中不。
不爾世尊。應知受想行識。常與無常。亦復如是。
凡所有色。若過去未來現在。內外麤細。
若勝若劣若遠若近。悉皆無我。汝等當知。
應以正智而善觀察。如是所有受想行識。
過去未來現在。悉應如前正智觀察。
若我聲聞聖弟子眾。觀此五取蘊。知無有我及以我所。
如是觀已。即知世間。無能取所取。亦非轉變。
但由自悟而證涅槃。我生已盡。梵行已立。
所作已辦。不受後有。說此法時。五苾芻等。
於諸煩惱。心得解脫。信受奉行。
佛說五蘊皆空經
釈尊の直説法に通じる教えだから、そのまま節をつけて唱えても、般若心経よりははるかに功徳があると思うよ。漢文の良し悪しはよく分からないが、印象としては現代人の訳かと思うくらいスマートだ。
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パーリ文は、
http://www.tipitaka.org/
↑こちらの、
http://www.tipitaka.org/romn/cscd/vin02m2.mul0.xml
↑6.Pañcavaggiyakathā以下、20〜24段落までが対応する(律蔵大品)。
※リンク追加
http://www.tipitaka.org/romn/cscd/s0303m.mul0.xml
↑Saṃyuttanikāyo>Khandhavaggo>1.Khandhasaṃyuttaṃ>
6.Upayavaggo>7.Anattalakkhaṇasuttaṃ(相応部犍度篇蘊相応牽引品無我相経)
同経の訳者として名前が出ている義淨三蔵(635-713)は、般若心経を訳した鳩摩羅什よりも玄奘よりもあとの人なので、漢文のテキストとしては般若心経の訳文が先輩であろう。「空」が一つも出てこないのに「五蘊皆空経」と名付けられているのは、思想史的なつながりを意識した所為かどうか調べてないから分からん。
ちなみに、義淨がものした『南海寄帰内法伝』は、七世紀末のインド仏教の実態を知る上でこの上ない資料となっている。っつーか日本人のステレオタイプ的な仏教観からすると、「えっ?何これ」とゆー意外な記述が続くためか、あまり積極的に読まれていないような気がする。
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こちらの現代語訳がおススメ。中国仏教は「北伝仏教」と謂われるが、実は義淨のように海路でインドに渡り、「南伝」で仏法をもたらした僧侶もいた。また、現在まで続く大乗の比丘尼サンガを創設したのも海路で中国に渡ったスリランカの尼僧(無畏山寺派)であったという。近年、比丘尼の伝統が絶えた上座仏教圏の女性修行者が韓国や台湾などの比丘尼サンガで具足戒を受けて比丘尼主家するケースがある。
そういえば、1998年に放映されたNHKスペシャル『ブッダ 大いなる旅路』でも、最終回台湾を訪れたスリランカ上座仏教の大長老(車椅子姿)が、巨大観音像を感慨深げに眺める場面を見た記憶がある。
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そんなわけで海洋アジアを通じて伝播した仏教の諸相について、地域史と絡めてまとめてみたら切り口として面白いだろうな。日本が絡むのは、高丘親王の遭難あたりからか。
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ここから追記(2009/01/06)
記事を投稿してから思いだしたんだが、劉宋の元嘉12年(西暦435)にスリランカから広州に上陸した天竺僧・求那跋陀羅三蔵が訳出した『雜阿含経』にも無我相経と対応する経典が収録されている。求那跋陀羅も義淨三蔵と同じく、見事に「南伝」で中国に法を伝えたお坊さんだ。我々は仏教東漸をイメージする時、あまりにも「西遊記」「シルクロード」に影響受けすぎかもしれない(自戒込めて)。
(三四) 如是我聞。 一時。
佛住波羅奈國仙人住處鹿野苑中。 爾時。世尊告餘五比丘。
色非有我。若色有我者。於色不應病.苦生。
亦不得於色欲令如是.不令如是。
以色無我故。於色有病.有苦生。
亦得於色欲令如是.不令如是。受.想.行.識亦復如是。
比丘。於意云何。色為是常.為無常耶。
比丘白佛。無常。世尊。 比丘。若無常者。是苦耶。
比丘白佛。是苦。世尊。 比丘。若無常.苦。
是變易法。多聞聖弟子寧於中見是我.異我.
相在不。 比丘白佛。不也。世尊。 受.想.行.
識亦復如是。是故。比丘。諸所有色。若過去.
若未來.若現在。若內.若外。若麤.若細。若好.若醜。
若遠.若近。彼一切非我.非我所。如實觀察。
受.想.行.識亦復如是。 比丘。
多聞聖弟子於此五受陰見非我.非我所。如是觀察。
於諸世間都無所取。無所取故無所著。
無所著故自覺涅槃。我生已盡。梵行已立。
所作已作。自知不受後有。 佛說此經已。
餘五比丘不起諸漏。心得解脫。
佛說此經已。諸比丘聞佛所說。歡喜奉行。
こっちの方が実際の会話の調子を生かした雰囲気がする。
読み下しは、
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に収録されている。長崎法潤による「解題」がけっこう面白いので、図書館などで読んでみる価値はあるかも。
〜生きとし生けるものに悟りの光が現れますように〜