寺社勢力の中世(2008年新書暫定ベスト1)

成田山仏教図書館で調べごと。新勝寺にお参りもできて満足。

寺社勢力の中世―無縁・有縁・移民 (ちくま新書)

寺社勢力の中世―無縁・有縁・移民 (ちくま新書)

寺社勢力の中世―無縁・有縁・移民 (ちくま新書 734)
作者: 伊藤 正敏
出版社: 筑摩書房

往復の電車で読んだ。伊藤正敏先生、僕が協会事務局に入る前にバイトしてた某社で、地方都市の産業集積に関するレポートをまとめてた際に偶然読んで、もんのすごい衝撃を受けた。日本における都市とは、中世五〇〇年の間、朝廷・幕府と日本を三分していた寺社勢力、すなわち比叡山東大寺高野山根来寺など大寺院の境内都市であり、それらには摩天楼(仏塔伽藍)が聳え立ち、あらゆる産業が集積され、農村の共同体(有縁)からはみ出した人々を無条件に受け入れる匿名性を担保される空間(無縁)であった。境内都市は、現代にまで通じるあらゆる日本文化のゆりかごでもあった。そもそも京(京都)は近世まで比叡山の門前であった……云々。網野中世史もイマイチ眉唾な感じがしていたのだが、それをはるかに大胆かつ実証的に進展させた伊藤先生の中世都市論は、まさしく本物の輝きを持っていた。でも、あまりにもぶっ飛んでいるもので、これがそのまま受け入れられるには随分時間がかかるんじゃなかろうかという気もしていた。いかにもゴーイングマイウェイっぽいし……と思っていたら、なんと、筑摩書房から一般向けの新書が出たではないか! こんなうれしいことはない。詳しくは目次を見ていただきたいが、とにかく最初のページから巻末まで、びっくりすることばかりだ。日本史研究のものの見方に大転換を促される。著者の言う「寺社勢力」はイコール宗教勢力ということはできない。もっと複雜怪奇な重層的な存在である。その「国家と全体社会の盤根錯節とした絡み合い、有縁と無縁の相克」を面白がれる胆力なしに、歴史に遊ぶことはできない。こんなに楽しそうに、歴史に遊んでいる著者は、やっぱり本物の学者だよ。

文句なしに、いまのところ2008年新書本ベスト1に挙げたい本だ。

『寺社勢力の中世―無縁・有縁・移民』 (ちくま新書 734)目次
はじめに
序章 無縁所 ――駆込寺と難民
一章 叡山門前としての京
1 中世京都案内
2 祇園社御霊信仰
3 悪僧と神人
4 中世の開幕 ――通説への挑戦
5 無縁所の理念
二章 境内都市の時代
1 最先端技術
2 都市の発見
3 武士としての寺僧
4 領主としての寺社
5 巨大な経済支配者
6 境内都市と法
7 呪術への不感症
8 政治記事あって経済記事なし ――国家だけ、全体社会を描かない歴史書
三章 無縁所とは何か
1 無縁所の実権者 ――平等と下克上の世界
2 あらゆる権威の否定
3 ダイシ信仰 ――広まらなかった天台宗真言宗
4 民主主義と大衆社会
5 自由の諸相
6 平和領域
7 無縁所とは何か
四章 無縁VS.有縁
1 有縁と無縁は双生児
2 寺社勢力への対策
3 室町幕府の京都市政権奪取
4 境内都市から自治都市へ
5 都市の無縁性と有縁性
6 衰退する無縁所
終章 中世の終わり
おわりに

伊藤先生の既刊。歴史マニア以外は『寺社勢力の中世』読んどけばいいと思うけど。

中世の寺社勢力と境内都市

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日本の中世寺院―忘れられた自由都市 (歴史文化ライブラリー)

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〜生きとし生けるものが幸せでありますように〜