「チベット問題」の淵源を考える

法友の木下全雄師(高野山真言宗)がホームページを開設。ブログBe Happyもまめに更新。ぜひ巡回先に加えてください。

15:00より東洋大学白山校舎にて開催された東洋大学東洋学研究所研究発表例会『「チベット問題」の淵源を考える チベットはなぜ“自由独立の国”であり続けられなかったのか?』を聴講。講師は客員研究員の田崎國彦先生。パートナーの渡邊郁子先生とともに、大学時代からお世話になってきた。いわゆるチベット問題とは、チベット側が「問題」を作ったのではなく、清朝までの多民族多文化主義的な統治(チベットに対しては導師と施主というチューユン体制で接してきた)を中国が破棄し、清朝の版図をまるごと国民国家化して漢人に同化しようという中華一元主義に変化したことによって引き起こされた「問題」であること。西欧列強も、チベットとシナの「チューユン体制」を理解せず、単に「宗主国と属国」という枠組みで捉えようとしたため、中国のチベット侵略に的確な批判ができなかったこと。1913年2月14日、ダライラマ13世によってチベットの独立宣言がなされ、五箇条の新政策も発布された。これ以後1950年の中共人民解放軍の武力侵攻まで、チベットが近代的な意味での独立国家として存在していたこと。歴史的に、中国の文化的影響をほとんど受けずに発展したチベットは、「中国の内なる他者」ではなく、「外部の他者」であること。ダライラマ14世が「チベット独立」要求を取り下げているのは、諸共和国の「連邦」で各共和国の連邦離脱が憲法で保障されていたソ連と違って、中華人民共和国には各自治区の離脱権がないことを踏まえた極めて現実的な対応であること。などなど、いっぱい勉強させていただいた。田崎先生と渡邉先生のコンビはこれまで学術的にも貴重な仕事をされているが、今後は一般向けのチベット史の啓蒙書も発表してほしいなと思う。

14人のダライ・ラマ―その生涯と思想〈上〉

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  • 作者: グレン・H.ムリン,Glenn H. Mullin,Kunchok Sithar,田崎國彦,クンチョックシタル,渡邉郁子
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14人のダライ・ラマ―その生涯と思想〈下〉

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『14人のダライ・ラマ―その生涯と思想』(上・下)すごい労作。

ダライ・ラマ他者と共に生きる

ダライ・ラマ他者と共に生きる

ダライ・ラマ他者と共に生きる』日本で出ているダライ・ラマ14世の本の中でもトップクラスの名著だと思う。