チベット問題の最大公約数を探る/『靖国』珍騒動/日本的革命の哲学

11日:パティパダー5月号入稿。リニューアルということで分厚いのができた。発行部数も大幅増の予定。
12日:スマナサーラ長老のダンマパダ講義。夜、ダーヤカ会議。議題たくさん。

 ここまできて、われわれはいわゆるチベット問題は実はその半分が中国人自身の問題であることを難なく発見する。身分の高い者から庶民まで、チベットの民情文化に最低限の認識も尊重もないだけでなく、複雑で微妙な民族問題にまったく鈍感である。さらに言えば、中華人民共和国多民族国家とは言うが、我々の少数民族政策はずっと不完全であった。一つには我々はただ彼らを少数民族とみなして一方的に働きかけてきたが、中国人を主体とする主要民族グループがいかに他の民族と共存すべきかを省みてこなかった。二つ目は、少数民族政策の範囲がかなり狭く、民族の視点を適切に他の政策に反映させていなかった。

中国の若手知識人、梁文道によるチベット問題論考。ぜひ、ご一読を。
上記のシャープな分析に比べて、新華社の「公式分析」のしょーもなさといったら……。

■ラサ3・14打ち壊し略奪焼き討ち暴力事件発生後、すべての良識ある人々はとわずにはおれないだろう:チベット社会秩序は安定し、人々は安心して暮らしていたはずなのに、なぜこのような暴力犯罪がおきたのか、いったい誰が扇動したのか?

■数日来、公安当局は初期捜査を通じて、3・14事件が単独の偶発事件ではなく、ダライ集団が画策、組織、指揮したいわゆる「チベット人民大蜂起運動」と不可分であり、その重要な構成部分であることを証明できる十分な証拠をつかんだのである。

書き出しから仰々しいコケオドシ振りが微苦笑を誘う。
福島香織さんが最低限のコメントで全部ぶっ壊してるけど、各自ツッコミどころを探しても面白いかな。

チベット危機に関する平和的全面解決を求める日本政府に対する公開書簡への賛同者を募っています。立派な提言だと思います。私は署名しました。皆様もぜひ!(再掲載)



映画『靖国 YASUKUNI』予告編

さて、映画『靖国』について、「日本会議」界隈の上映中止策動が意気消沈したと思ったら、今度は自民党の議員に炊き付けられた出演者が「変心」して出演箇所の削除を求めたり、靖国神社が「撮影許可云々」を持ち出して映像削除を求めたり、珍妙な騒動が続いている。なんだ……この気色悪い執念深さは。公共性が欠如して自意識だけが肥大化した、まるで「品格なし」と嘆かれる側のメンタリティそのものじゃないか。靖国神社関係者の右往左往は、失笑を通り過ぎて、もう相手にするのもバカバカしい。『靖国』の李監督も、今回の騒動で映画もう一本作れるね。「現代日本」を考察するための素材としてはむしろそっちの方が面白い作品になるかもしれない。いや、今度こそ、日本人が作らなきゃダメだな。頑張れ、森達也


日本的革命の哲学 (NON SELECT 日本人を動かす原理 その 1)

日本的革命の哲学 (NON SELECT 日本人を動かす原理 その 1)

山本七平『日本的革命の哲学 (日本人を動かす原理 その1)』(祥伝社)
鎌倉時代から江戸時代まで日本人の法意識を規定してきた『御成敗式目貞永式目)』は日本の固有法でありながら明治以降は、その記憶ごと抹殺されていた。この法の制定を主導した北条泰時と彼の師であった明恵上人に焦点を当てて、御成敗式目に込められた「日本的革命の哲学」を明らかにした一冊。日本に民主主義をもたらしたのは仏教であり、その仏教の教えをエートスとした東国武士たちの革命で樹立した「鎌倉幕府は、日本最初の民主主義政権」だったのである。その革命政権が、腐敗と利権の巣だった律令制を打破し打ち立てた固有法が『御成敗式目貞永式目)』であった。その制定の裏に、当代一の仏教僧たる明恵上人がいた。明恵上人といえば、いまだに『夢記』ばかり取りざたされるが、本当に重要なのは彼が北条泰時の師であり、仏教の教えにもとづいて日本の「民主主義確立」を助けたことではないのか。「三代目のクリスチャン」である山本七平が、誰よりも的確に、日本の国づくりに仏教が果たした役割を評価してみせたとは、なんと不思議な巡り会わせだ。

泰時の弟である北条重時の残した家訓『極楽寺殿御消息』には以下のような言葉がある(上記サイトの現代語訳より)。

三十四、殺生をひかえなさい。
生き物の命を、
みだりに、奪っては、
いけません。
生き物を、あわれみなさい。
小さい虫けらも、
命を惜しむこと、
人と同じです。
自分の命と、同じ値うちです。

仏教徒であり生命を慈しむこと。これが日本のオリジナル武士道なのだ。葉隱なんぞ末代の堕落形に過ぎない、と思えてくる。

〜生きとし生けるものが幸せでありますように〜